仕事中は眠いのに、夜になると目がパッチリするのはなぜ?…寝つくタイミングは睡眠物質と覚醒力のバランスで決まる!
Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」
こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。 【図解】「睡眠負債」寝だめで解消できる? 昼間の仕事中は眠いのに、夜になると目がパッチリして、ついつい夜ふかし。そんな経験はないでしょうか? 今回は睡眠のドアが開くタイミングについて解説します。
睡眠物質がたまると眠くなる
睡眠の最大の目的は、日中の疲労を解消することです。覚醒中に蓄積した疲労物質がある臨界点を超えると睡眠が誘発される、という仮説が有力です。 眠気をもたらす疲労物質(睡眠物質)の全容はまだ解明されていませんが、おそらく多数の生体物質が関わっていると推定されています。実際、エネルギー代謝に関わる物質やホルモンなど幾つかの睡眠物質候補が見つかっています。 これらの睡眠物質は朝に目覚めた直後からたまり始め、一日の後半になるほど量が大きくなる一方、いったん睡眠に入ると徐々に減少して一定量以下になった段階で朝の目覚めを迎えるというわけです。 覚醒時間が長いほど(夜遅くなるほど)眠気が強くなり、特に徹夜をしていると耐えがたい眠気に襲われるという現象もそれで説明がつきます。
ふだんの就寝時刻の2、3時間前は「睡眠禁止ゾーン」
ところが、人の睡眠を細かく観察すると、睡眠物質だけでは説明がつかない現象が見つかりました。 特殊な方法で一日の眠気の変動を測定すると、確かに朝は眠気が少ないのですが、その後、夜に向けて直線的に強くなることはなく、昼食後の一時的な眠気(シエスタの時間帯)を除けば、日中は高い覚醒度を保ち、むしろ夕方過ぎの時間帯が一日の中でもっとも眠気が少ないことが明らかになったのです。 睡眠物質が覚醒中に徐々に蓄積するならば、眠気は日中に徐々に強まり、ディナーや夜の団らん、趣味を楽しむことなどできないはずです。 ところが実際にはそうではありません。睡眠物質の存在は確かなので、何ものかが睡眠物質による眠気にあらがって脳を目覚めさせていると考えれば説明がつきます。 その正体についてもまだ研究途上ですが、体内時計(生物時計)が一役買っていることが明らかになっています。 体内時計とは、脳内にある視交叉上核(しこうさじょうかく)の別名です。ここには脳神経が塊状に集まっており、24時間周期の生体リズム(サーカディアンリズム、概日リズム)を発振しています。 視交叉上核は、脳を覚醒させる機能も持つ多くの脳神経(覚醒系神経核)や自律神経、内分泌器官などと連動して、目覚める力(覚醒力)を調整しています。 例えば、睡眠物質の蓄積による眠気に対抗するように、視交叉上核の指令によって起床後に徐々に深部体温(脳の温度)が上昇し、ふだん寝ついている時刻の2、3時間前に一日の中でピークを迎えます。 このことは自律神経の交感神経活動も活発になっていることを示しています。つまり、夕方過ぎは一日で脳が一番ホットになるため眠気が少なくなるのです。 また、この時間帯には覚醒作用のあるホルモンの分泌量がまだ多く、一方で睡眠作用のあるホルモンの分泌が始まっていません。このように眠るためのコンディションが整っていないことから自然な眠気が出てこないのです。 そのため、ふだん寝ついている時刻の2、3時間前は別名「睡眠禁止ゾーン」とも呼ばれています。