「手術は成功です」は無責任。現役医師は言わない理由
「意識不明の重体です」「全治3カ月の大怪我です」。ドラマやニュースでよく聞くセリフだが、実際の医療の現場ではほとんど使われないそう。現役医師である「外科医けいゆう」こと山本健人さんが、医者と患者の「誤解の素」になりそうな言葉を解説。『がんと癌は違います』から一部を抜粋してお届けします。
「予定通りの遂行が難しい手術」はほとんどない
医療ドラマではとかく「成功」や「失敗」という言葉をよく聞きます。 外科系ドラマでは特に、手術の「成功」や「失敗」という表現がよく使われ、手術後に外科医が患者さんの家族に、 「手術は成功しました」 と言って家族がほっと胸を撫で下ろし、医師に「ありがとうございました」と涙を浮かべながら伝える、という感動的なシーンもよくあります。 また「失敗」と言えば、『ドクターX』に登場する敏腕外科医、大門未知子の決め台詞「私、失敗しないので」は、もはや知らない人はいないくらい有名と言ってよいでしょう。 こうしたドラマの影響か、手術の前に、 「失敗しませんよね?」 と言われたり、手術が終わった後に、 「大成功、と言ってもいいですよね?」 と言われたりすることもしばしばあります。 しかし、実はこの「成功」や「失敗」という言葉を、実際に私たちが患者さんに使うことはほとんどありません。なぜなのでしょうか? まず、ほとんどの手術は術前に予定していた通りに遂行されるため、私たちは術後、ご家族に「手術は予定通り終わりました」と言います。ご家族の方も「ありがとうございました」と冷静におっしゃるケースがほとんどで、その場で泣き崩れるようなことはめったにありません。 これは、例えば大腸カメラの検査を受けに行って、「予定通り大腸カメラが終わりました」と言われるのと状況は似ています。 どのような手術を行うか、術前に外科チーム内で協議し、ご本人やご家族に順を追って丁寧に説明し、手術当日にその計画通りに手術が遂行される、というのがほとんどだからです。もちろん、前述した通り、病気が予想以上に進行していたことを手術が始まってから知るケースはあります。しかし、こうした「予想外の事態が起こる可能性」も術前に患者さんに説明し、予想外の事態すら「想定の範囲内」となるよう、患者さんと綿密に情報共有しておく必要があるとも言えます。 医療ドラマのように、「成功」を喜ぶほど「予定通りの遂行が難しい手術」ばかり行うことは、現実にはありえないのです。