加熱式たばこでハームリダクション…二者択一を迫らない依存症との向き合い方
加熱式たばこのベネフィット
どのようにハームリダクションを実現するのか──。イベントでは身近な嗜好品であるたばこから議論を始めました。 喫煙はがん発生の上位要因であり、健康リスクを低下させるためには本来であれば禁煙が望ましいと言えます。しかし、誰もが実行できることではありません。たばこの葉に含まれる成分「ニコチン」に中毒性があるからです。 一方で、たばこ関連の疾患の最大の原因はニコチンではなく、煙に含まれる他の化学物質だと言われます。その代表例が発がん性物質として知られる「タール」。タールが煙として吸い込まれ肺に蓄積すると、肺の機能を低下させ、肺がんのリスクを高めます。 安田: 「日本における生活習慣の改善が社会保障費用と経済に及ぼしうる効果」を調べた論文があります。この中では、非健康的な生活習慣として、①塩分の過剰摂取②喫煙③飲酒④脂肪の過剰摂取⑤食物繊維、果物、野菜などの不十分な摂取──の5項目を対象にしました。 喫煙に関して言えば、①70%の喫煙者が加熱式たばこに移行②加熱式たばこは30%健康リスクが低い──と仮定。その結果、2019年の単年で、喫煙習慣を改善することで約3659億円の医療費と経済損失を削減できた可能性を指摘しています。さらに、喫煙者が紙巻きたばこから加熱式たばこに切り替えれば、将来的にはさらなるコスト削減が期待できるとしています。 そんな中で注目を集めるのが「加熱式たばこ」や「電子たばこ」。火を使わないためタールの量が劇的に減ります。紙巻きたばこから加熱式たばこへのシフトではニコチンの量が変わらないため、喫煙頻度は減りませんが、タールの量が大きく違うため健康への害を減らすことができるのです。 さらに加熱式たばこによるハームリダクションは、個人だけでなく社会全体でも経済的な恩恵をもたらすと言います。大阪大学の安田洋祐教授(経済学)は、最新の研究論文をもとに次のように説明しました。