日本人の腎臓は生まれつき弱い? 寿命を左右する腎臓の働きと大問題(専門家が監修)
腎臓の救い主は透析療法。でも負担は少なくない
GFR15未満、つまり健常者と比べて腎機能が15%未満まで落ちると、末期腎不全(ECKD)の状態となる。ここまで至ると、血液をきちんと濾過できなくなり、老廃物が溜まり、吐き気、食欲不振、頭痛、むくみといった尿毒症の症状が表れる。前述した心腎連関により、心臓の調子も悪くなり、心不全など命に関わる疾患の危険度も跳ね上がる。 そこで欠かせないのが、腎臓の機能を人工的に補う透析療法。 日本では死後に腎臓を提供してくれるドナー数が少なく、親族間で行う生体腎移植が主流。それも年間2000件未満に留まるため、透析療法が末期腎不全治療の第一選択肢。年間およそ4万人が新たに透析療法を始める。 透析療法には、大きく血液透析と腹膜透析という2つのやり方がある。透析を新規に導入する人の97%は血液透析、残りの3%が腹膜透析をチョイスする。 「血液透析は病院で腕からポンプで血液を抜き出し、ダイアライザーという装置で老廃物や余分な水分を取り除き、体内に戻します。所要時間は1回4~5時間。これを週3回ペースで続けます」 腹膜透析は自宅で行うもの。お腹に透析液を入れ、自らの腹膜で老廃物や余分な水分を透析液に排泄して、体外へ出す。透析液を毎日自分で交換する必要があるが、病院に行くのは月1~2回で済むというメリットがある。 現在、国内の透析患者の総数はおよそ35万人に達する。人口100万人当たりの透析患者数は、台湾に次ぐ世界第2位。腎臓ファーストな暮らしを送り、透析療法や腎移植と無縁な一生を送ろう。
腎臓はホルモンを出している
体内でホルモンを出す器官を内分泌器という。腎臓は内分泌器でもあり、各種ホルモンで体内環境を一定に保つホメオスタシス(恒常性維持)などに寄与している。 腎臓が出す各種ホルモンから、代表的な2つを紹介しよう。 まずはエリスロポエチン(EPO)。このホルモンは、造血作用を持つ骨髄に作用して、血液中で酸素を運んでいる赤血球を増やす働きを持っている。 腎臓に多くのEPOを作らせるために有効なのは、酸素が足りない環境下で過ごすこと。すると「EPOをもっと出して赤血球を増量せよ」と命令する遺伝子を読み出す転写因子(HIF、低酸素誘導因子)が増えてくる。 マラソン選手が高地トレーニングを行うのは、高地という低酸素の環境下でHIFのスイッチを入れてEPOを増やすため。赤血球が増えると、酸素を介して持久的に運動するマラソンなどの競技パフォーマンスは上がる。 もう一つは、レニンというホルモン。前述の通り、塩分の過剰摂取などによる高血圧はNGだが、かといって血圧が低すぎても、腎臓は血液を満足に濾過できない。そこでレニンは、血液中のアンジオテンシノーゲンという成分から、アンジオテンシンⅠを作り、さらに酵素の働きでアンジオテンシンⅡに転換。アンジオテンシンⅡが血管を縮めて血圧を適度に上げてくれる。 また、アンジオテンシンⅡは、腎臓の上にある副腎からアルドステロンという別のホルモンの分泌を促す。アルドステロンは腎臓に作用し、ナトリウムの再吸収を促して血圧をアップさせるのだ。
チェックリスト
・尿が泡立つことがある。 ・尿の量・回数が増えた、あるいは減った。 ・塩辛いものが大好きだ。 ・健康診断で糖尿病や高血圧を指摘された。 ・ハムやソーセージを毎日のように食べる。 ・むくみがあり、指輪や靴がキツくなった。 ・階段を上がると息が切れる(貧血がある)。 ・腰や脇腹に痛みがある。 ・生まれたときの体重が2500g未満だった。
取材・文/井上健二(初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売)