白亜紀末大絶滅はなぜ起きた(下)-南米アルゼンチン植物化石のメッセージ
地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。地球の長い歴史を1年に置き換えた場合、人類は12月31日午後11時半過ぎにようやく出現したと例えられるほど、わたしたち人間の歩みは実は、とても短いものです。 人類出現まで、地球はどのように環境を変え、生き物はどのように進化してきたのか―。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、世界の最新化石研究について報告します。 ----------
白亜紀末の大絶滅において、陸地に生息していた植物の化石記録は何を語ってくれるのだろうか?今回の本題だ。11月7日付けの学術雑誌に発表された論文(脚注1)は、この点において非常に興味深いデータを与えてくれている。研究チームの中心メンバーである博士号過程の生徒マイケル・ドノヴァン(Michael Donovan)氏と担当教官で古植物学者のピーター・ウィルフ博士(Peter Wilfe)は、北米ペンシルヴァニア州立大学に所属する。ちなみにウィルフ博士は白亜紀から新生代初期にかけての植物―特に葉の化石―の第一人者の一人だ(脚注2)。 この研究のターゲットとなった植物化石の標本は、白亜紀最後期から新生代初期(暁新世のダニアン期)、約6700万年前から5700万年前の地層から見つかった(Image 1)。(注:日本語版の地質年代は日本地質学会のものを参照:脚注3)。前回に述べた「K-Pg境界線」(脚注4)をまたぐ1000万年間が研究対象だ。一連の地層「レフィパン層(Lefipan Formation)」は白亜紀後期の当時、内陸地に位置していたと考えられている。そのため海成生物の化石は見つからないようだ。 植物化石の中でも特に「葉」の化石が今回のメイン・ターゲットだ。3646点に上る化石の葉の標本を調べたと報告されている(Image 2)。かなりの数なので、より詳細な絶滅のパターンやプロセスのデータが期待できるだろう。そしてもう一つ興味深い点は、こうした化石の葉に見られる「虫食いの跡」をメインに取り上げていることだ。さてたくさんの葉に開いた多数の小さな穴から、白亜紀末大絶滅の謎に関し、どのような推理を導くことができるのだろうか?