白亜紀末大絶滅はなぜ起きた(下)-南米アルゼンチン植物化石のメッセージ
二つの異なる大陸からの化石標本がデータとして用いられている。まず南米アルゼンチンのパタゴニア。具体的にはチュブ州(Chubut Province)と呼ばれる地域で南米大陸の南部に位置する。ドノヴァン氏によると何千という植物化石の標本が見つかっているのそうなので、当時大森林だったことが想像される。そしてデータの比較として、カナダとアメリカ合衆国の境に位置する北米中部ノースダコタ州産の化石データも対象になっている。 北米と南米という地理的な場所の比較が今回の絶滅研究において鍵となるようだ。ノースダコタ州など北米西部(ロッキー山脈沿い)は、メキシコ湾南部にある例の巨大隕石「チュチュラブ」の衝突地点からより近い場所に位置している。南米大陸南部に位置するアルゼンチンのチュブ州は、海洋と大陸をまたいでかなりの距離がある。 この地理的事実は「隕石衝突仮説」を検証する上で重要となる可能性がある。もしこの巨大隕石が白亜紀末大絶滅の真の下手人なら、衝突地点により近い場所(例えば北米ノースダコタ州)の化石記録のもののほうが、より深刻なダメージの様相を示しているはずだ。一方震源地からより遠く離れた場所(例えばアルゼンチン南部)の生物は、(もしかしたら)それほどはっきりとした大絶滅の傷跡を化石記録に残していないかもしれない。
化石記録の様相―より具体的には「絶滅のパターン」と大絶滅後の「リカバリー」―において、南米と北米間に何か大きな違いはあるのだろうか? 結論から先に述べさせていただくと、約6600万年前の白亜紀最終末時、多数の植物種が北米と同様にここアルゼンチンの彼方においても消え失せたのは間違いないということだ。別の研究論文によると北米ノースダコタ州では白亜紀後期の地層から約130種が確認されているが、そのうちの100種くらいがK-Pg境界線を通して短期間のうちに滅んだそうだ(Wilf & Johnson 2004:脚注5)。 地質年代上「短期間のうちに多数の種が消え失せた」という絶滅のプロセス。南米と北米において同じような絶滅パターンを示しているデータ。この二つの現象は、陸地に住んでいた植物が、広範囲に起きた劇的な環境の変化によって突然滅んだ可能性を示してはいないだろうか? 約6600万年前頃という時代を考慮してみると、「巨大隕石チュチュラブ」の衝突による衝撃、そしてそれに伴って起きたとされるグローバル規模での二次災害が「陸生植物にも深刻なダメージを与えた」という結論が導かれる。