なぜ私たちは「夢」を見るのか、夢とは一体なんだろうか…「2つの睡眠」が教えてくれること
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】「脳がなくても眠る」って一体どういうこと!? 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)
夢みる睡眠
睡眠中の夢は、大切な意味をもつと考えられてきた。古代において夢は、魂の彷徨いだったり、神のお告げをきく機会だとされていた。フロイトのように、夢は心の奥底の感情や願望の表出だ、と唱えた学者もいる。「夢占い」も、あながち間違いでないかもしれない。 私は幼い頃から、毎晩のように夢をみるのだが、年齢を重ねるにつれて夢の内容も変わってきた気がする。クロアゲハの研究に熱中していた頃には、クロアゲハの蛹が羽化する夢をみたことがある。クロアゲハがいつも朝方に羽化するのを不思議に思い、ずっと暗い場所に置いたらどうなるのかと考えた。蛹を押し入れの奥に置いてみたのだ。 毎日のように、どうなるのか楽しみに観察していたのだが、ある日、羽化したクロアゲハが押し入れの中を飛び回っていた。私は、それを捕まえようと焦っていたのだが、はっと目を覚ますと夢であることに気がついた。実際のところ、押し入れの奥に入れた蛹は、蛹になってから10日後の午後1時半に羽化し、三時過ぎに飛び立っていった。 最近では、なぜか遅刻をして焦る夢をみるのだが、不思議なことに夢の中で「これは夢だから、そんなに焦らなくてもよい」と思うことがある。夢には、昼の間に深く考えていたことが反映されやすい。場合によっては、まるで起きているかのように、夢の中でも冷静に思考することができる。夢をみているとき、脳波は睡眠のパターンを示しているのか、それとも起きているときの脳波なのか? ベルガーがヒトの脳波の測定を成功させた後、エイドリアンの助けも相まって、脳波は睡眠状態を判別する指標になった。その後さらに研究が進み、もう一つ非常に重要なことが分かったのだ。 1950年代、シカゴ大学で研究を行っていたユージン・アセリンスキーは、息子が眠っている様子を見ていて、あることに気がついた。眠っている最中に、瞼の下の眼球が素早く動く瞬間があるのだ。彼は、この特異な現象に注目して研究し、その際の脳波を解析してみた。すると、その状態では、睡眠中に通常みられる脳波パターン(低周波数で振幅の大きい波形)とは異なり、周波数の高いパターンであることを見出した。より起きているときに近い脳波なのだ。ただ、筋肉は弛緩した状態であるため、体は動かない。彼はその状態を、急速眼球運動(rapid eye movement)の頭文字をとって、REM(レム)睡眠と名付けた。レム睡眠ではない睡眠を、Non-REM(ノンレム)睡眠と呼んでいる。 睡眠は、ノンレム睡眠の時間が圧倒的に長い。レム睡眠はヒトの場合、睡眠時間全体の20パーセント程度であり、睡眠の後半に出現することが多い。レム睡眠中に起こされると、夢をみていたと答える人が多いという。レム睡眠は、鮮明な夢をみることが多い睡眠なのだ。実際のところ、夢はノンレム睡眠中にもみることはあるが、レム睡眠中の方が頻度が高く、夢の内容もより鮮明であるという。