白亜紀末大絶滅はなぜ起きた(下)-南米アルゼンチン植物化石のメッセージ
しかし今回の研究の目玉である化石葉に見られる「虫食い現象」のパターンについて、南米と北米のものにはっきり違いが見られることをドンヴァン氏等は発見した。その詳細を以下にまとめてみたい。 まず植物化石に見られる虫食いパターンの比較は、ドノヴァン氏のオリジナルな研究のアイデアという点に注目だ。Image3に見られるように、白亜紀の木の葉には実に多数の穴が開いている。形やサイズ、葉の一枚一枚における穴の分布状況などは、幾つかのグループの昆虫に食べられていたことを示している。ドノヴァン氏に直接尋ねてみたところ、さまざまなグループの毛虫等が一連の葉を食い散らかしていたということだ。(今日見られる葉を調べれば、ある程度の推測はたつが、化石から具体的にどの穴がどの昆虫種によって食べられたかを知る手立ては、今のところ無いようだ)。ちなみに世界的に見ても白亜紀の地層から、実際の昆虫の化石はほとんど見つからないそうだ。(恐竜の骨等と比べて非常に小さく繊細な体の構造のためだろう)。
こうした大小さまざまな虫たちは、地質年代を通して繰り返し起きたであろういろいろな環境の変化に敏感に反応し、ダメージを被り続けてきたことは想像に難くない。例えば白亜紀末の巨大隕石の大衝突直後に起きたであろうと考えられている巨大津波。地質学者から「メガ津波」とも呼ばれ、一説には高さが150m以上にも至ったと推定されている(脚注6)。3・11の東北沖大地震時の記録が11mくらいだったので、このメガ津波の規模が桁外れに大きかったことがイメージできるだろう。 そしてその後、何年にも渡って続いた(かもしれない)核の冬のような短期間の寒冷化や酸性雨、大規模な大火事、及び旱魃などの気候現象の変化に、(おそらく)敏感に反応したことだろう。(注:こうした局地における具体的な二次災害の傷跡は、ほとんど研究データが報告されておらず、今のところ想像の域を出ていない)。もし隕石の衝突がかなり大規模なスケールで、地球各地の陸生動植物に及んでいたとしたら、虫食いの跡もK-Pg境界線を境にすっかり姿を消え失せることになるはずだ。 ドノヴァン氏等によると、虫食いの現象はK-Pg境界線直後に、南米においても「はっきり減っている」そうだ。このデータはチュチュラブ大隕石の衝突が、世界的な規模で被害を引き起こした可能性を示しているといえるだろう。しかし南米と北米のデータを比べてみて、一つ非常に興味深い大きな違いが指摘されている。こうした一連の昆虫の「リカバリー」―いわゆる復活のパターンだ。南米の化石記録は、より短期間に昆虫たちの虫食いの跡を再び目にすることができるそうだ。一方北米のものはかなり長い間待たねば、昆虫たちの生の謳歌の様相を目にすることができない。