白亜紀末大絶滅はなぜ起きた(下)-南米アルゼンチン植物化石のメッセージ
北米と南米において、巨大隕石のダメージに「差があった」可能性を、今回の研究データは示している。K-Pg境界線時における大絶滅の地域間におけるこの「ダメージ度の差」は、私の知る限り―特に陸生生物グループにおいて―今回の研究が初めてではないだろうか。震源地からの距離とダメージ度の相関関係は理屈として考えれば、当たり前に響くかもしれない。しかしサイエンスの知的ゲームという一面に目を向けると、しっかりしたデータの提出と慎重な仮説の検証は、怠ることのできない不文律だ。実にサイエンスのエッセンスといえるだろう。 さて、大隕石の衝突が世界的な規模にダメージを及ぼした可能性を、今回の研究は「事実」として押し上げることになるのだろうか?否、今回の研究結果が「大絶滅の謎を解明した」と私は大風呂敷を広げるつもりは微塵もない。まだまだ検証されなければならない事項が多々あると、私には映る。例えば南米以外の場所ではどうだったのか? アルゼンチン南部とノースダコタ州だが、新生代初期に全く異なる環境にあった可能性はないだろうか? そのため昆虫たちは隕石衝突による災害ではなく、まるで違うタイプの気候の変化(例えば小さなスケールでの温度や乾季・雨季等)の被害をただ受けていただけではなかっただろうか?
もう一つ、私にとって大きく立ちはだかるミステリーがある。植物以外の他の陸生生物種も同じように絶滅及びリカバリーのパターンを見せているのだろうか? 特に草食恐竜との関連性は非常に興味深いところだ。白亜紀のパタゴニアの地層からは、実にたくさんの「恐竜化石」がこれまでに発見されてきた。しかしドノヴァン氏によるとここ白亜紀末チェブ州の植物化石現場一帯から、恐竜の化石は(残念ながら)今のところ「見つかっていない」ということだ。 そして昆虫のような繊細(にみえる)陸生動物種が多数生き延び、すぐに繁栄への道へ向かっているにもかかわらず、どうしてより頑丈そうに見え、長距離移動にも長けたであろう大型恐竜たちは「大絶滅」の運命をたどったのだろうか?こうした、より重要で興味深いミステリーに挑む必要もいずれあるはずだ。