なぜ清水と湘南がJ1に生き残り徳島がJ2降格となったのか…「重要な試合に慣れていない選手ばかりだった」
清水エスパルス、湘南ベルマーレ、徳島ヴォルティスが繰り広げていた熾烈なJ1残留争いは、清水と湘南の残留、そして徳島のJ2降格で決着がついた。 明治安田生命J1リーグ最終節の10試合が4日午後2時のキックオフで一斉に行われ、清水がセレッソ大阪に2-1で逆転勝利を収め、湘南がガンバ大阪と0-0で引き分けたのに対して、徳島はサンフレッチェ広島に2-4で敗れた。 この結果、3連勝締めの清水は勝ち点を「42」に伸ばし、前節より順位をひとつ上げた14位でフィニッシュ。湘南は「37」で残留圏の16位をキープした一方で、徳島は前半だけで喫した3失点が大きく響いて湘南にわずか1ポイント差の「36」にとどまり、降格圏の17位から抜け出せずに1シーズンでのJ2への逆戻りが決まった。
先に試合を終えた湘南は結果待ち
敵地・パナソニックスタジアム吹田のピッチ上に、ちょっと変わった光景が生まれた。ガンバとの最終節をスコアレスドローで終えた湘南の選手やスタッフたちが、ところどころに輪を作ってはスマホの画面をのぞき込んでいたからだ。 見入っていたのは7分もの後半アディショナルタイムが表示され、同時刻のキックオフながらまだ決着がついていなかった徳島対広島。前者が引き分け以下ならば湘南のJ1残留が決まるなかで、徳島が2点のビハインドを背負っていた。 「このまま早く試合が終わってほしいという思いと、スコアが4-2だったので安堵ではないですけど、少し余裕を持って試合を見ているような状況でした」 ガンバから期限付き移籍している守護神で、日本代表にも名を連ねる谷晃生が契約で出場できない一戦で、ゴールマウスを託された富居大樹がピッチ上で経験した数分間に抱いた心境を振り返る。試合はそのまま終了し、清水に続いて湘南の残留が決まった。
キックオフ前の勝ち点で、15位の清水が「39」、16位の湘南と17位の徳島が「36」で並び、得失点差で湘南が大きくリードして迎えた運命の最終節。3チームが2つの椅子を争う熾烈なJ1残留争いは、前半のうちにほぼ決着がついていた。 サポーターの後押しを受けるはずのホームのポカリスエットスタジアムで、徳島が前半9分、11分と連続失点。湘南との直接対決を制した前節後に「勝って天命を待ちたい」と決意を明かしていた、キャプテンのMF岩尾憲がピッチ上で急きょ円陣を作った。 「失うものはないからしっかりとサッカーしよう、と言いました。守備にしても攻撃にしても、この状況での振る舞いとしてはありえなかったので」 しかし、前半36分にも失点を重ねる。後半9分に一矢を報いたMF岸本武流は、同20分に4失点目を喫した瞬間の心境を「見ている方々も、気持ちがポキッと折れてしまったかもしれない」と神妙な表情で振り返りながら、こんな言葉を紡いだ。 「僕たちのチームにはJ1経験者が少なく、このような重要な試合に慣れていない選手ばかりだった。緊張で体が硬くなって、試合への入りがよくなかったと思う」 今シーズンの出場試合数とJ1通算出場試合数が一致している、つまり今シーズンにJ1デビューを果たした選手たちが、徳島の先発陣では岸本を含めて実に8人を占めていた。攻守両面でキーマンを担う33歳の岩尾にしても今シーズンの開幕前の時点で、湘南に在籍した2013シーズンの7試合に出場しただけだった。 経験を積み重ねている過程にある徳島の現在地を、岩尾は「これが実力ということ」と位置づけながら、来シーズン以降の巻き返しへ向けて努めて前を向いた。 「最後は自力で勝ち点を積み上げないと残留できない、というぎりぎりの状況でこのような試合になってしまうのが、この一年間の集大成だと思う。手を抜いたつもりはないけど、必死に走ってきた結果がこれだということは受け止めなければいけない」 4年間に渡って指揮を執り、徳島を7年ぶりのJ1へ導いたスペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督(現浦和レッズ監督)が昨シーズン限りで退任。後任のダニエル・ポヤトス監督が新型コロナウイルス禍で入国できず、合流が4月中旬にずれ込んだ。 「本当にチームは少しずつ成長できたし、それをピッチでも表現できたと思う。ただ、最終的にまとめると、時間がもう少し必要だったと思っている」 指導を開始するまでの“ロス”を、同じくスペイン出身の指揮官はこう振り返った。年間わずか3勝の最下位に終わり、5試合を残してJ2降格が決まった2014シーズンから白星を10に、総得点を倍以上の34に伸ばし、最終節まで残留の可能性をつなぎ止めた軌跡を未来への可能性に変えて、徳島の2度目のJ1挑戦は幕を閉じた。