なぜ清水と湘南がJ1に生き残り徳島がJ2降格となったのか…「重要な試合に慣れていない選手ばかりだった」
得失点差の関係でガンバに勝てば残留が確定する状況にあった湘南だったが、引き分け以下ならば一転して徳島に逆転される可能性があった。 それでも山口智監督は、途中経過を含めた徳島の情報をすべて遮断。現役時代の大半をプレーした古巣、ガンバとの一戦に集中した心境をこう振り返った。 「勝てなかったのは残念だけど、選手たちが見せてくれたパフォーマンスは準備してきたものであり、内容に関してはすごくポジティブだった。想いがあってプレーをしたからこそ最後、残留につながったと思うし、非常に楽しい90分間だった」 浮嶋敏前監督の退任に伴って9月にコーチから昇格する形で、初の監督業をスタートさせた43歳が言及した“想い”とは、先月23日にまだ23歳の若さで、急性うっ血性心不全で他界したブラジル出身のMFオリベイラさんへ捧げたものに他ならない。 日々の練習で苦楽をともにしてきたチームメイトと、シーズンの佳境で突然の別れを余儀なくされたショックはまだ癒えていない。キャプテンのMF岡本拓也は試合後のフラッシュインタビューで、オリベイラさんに言及しながら声を詰まらせた。 それでも悲しみ以上に、メンタル的にも難しい状況で徳島に負けた前節に引き続いて自分たちらしさを失っていてはいけないと、湘南に関わる全員が心を奮い立たせた。 徳島戦の翌日に行われたオリベイラさんとの「お別れの会」を経て、ガンバとの大一番を迎えるまでの日々を、東京五輪の直前合宿に招集された谷を欠いた7月11日のFC東京戦以来、リーグ戦で4試合目の先発となった富居はこう振り返った。 「信じられないような出来事があったなかで、先週は徳島を相手に自分たちのサッカーができなかった。しっかりとオリ(オリベイラさん)にお別れを告げたいま、今週に関してはただの言い訳にしかならない。本当にいい練習ができたし、ピッチ外ではファミリーのような一体感を持ってできていたので、それが今日につながったと思う」 前節に続いて左腕に黒い喪章を巻いて臨んだ一戦で、湘南は13本のシュートを放ってわずか3本のガンバを攻守で圧倒。相手キーパー、東口順昭のファインセーブでゴールにならなかったものの、FW大橋祐紀が惜しいヘディング弾を2発放った。 攻守両面で躍動感を取り戻した90分間に、指揮官も成長の跡を感じている。 「そういうものを背負いながら、今週に関しては一切(表に)出さなかった。来年もJ1で戦える選手たちなので、その意味でもすごく大きな結果だと思っている」 コロナ禍の影響で昨シーズンの降格がなくなり、昇格組の徳島とアビスパ福岡を加えた20チームで争われた今シーズン。2試合を残して大分トリニータ、ベガルタ仙台、横浜FCのJ2降格が決まったなかで迎えた最終節の明暗を分けたのは、J1の舞台で積み重ねられてきたほんのわずかであり、それでいて大きな経験の差だった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)