愛知リコール署名偽造 広告関連会社元社長の初公判で明かされた「生々しいやり取り」
愛知県の大村秀章知事に対する解職請求(リコール)運動を巡って、署名を偽造したとして地方自治法違反の罪に問われた名古屋市の広告関連会社元社長、山口彬被告(38)の初公判が5日、名古屋地裁で開かれた。法廷では、検察側によって、署名偽造作業をめぐってリコール運動団体の内部で行われた生々しいやり取りが次々と明らかにされた。その内容を詳報する。
「著名人とのパイプ」と「ビジネスチャンスの拡大」を求めて
起訴状などによれば、山口被告はリコール運動団体の事務局長だった田中孝博被告(60)、次男の雅人被告(29)=共に同罪で起訴=と共謀して昨年10月下旬、佐賀市内でアルバイトを雇って少なくとも計71人分の署名を偽造させた。初公判の罪状認否で、山口被告は事実関係について「違うところはありません」と認めた。一方、田中被告は今年9月24日の初公判で、同様の罪状について認否を留保している。 罪状認否に続いて行われた検察側の冒頭陳述や、事件関係者の供述調書を含めた証拠書類の読み上げによると、山口被告は、美容整形外科院長の高須克弥氏を代表とするリコール運動団体が昨年6月1日に開いた記者会見を動画で視聴。運動のチラシを作成して自身の会社の業務としてポスティングすれば、高須院長ら著名人とパイプができ、ビジネスチャンスが広がると考えた。そこで6月17日、運動団体側にメールを送り、無償でポスティングすることを申し出た。 正式な署名活動は8月25日から始まったが、署名は思うように集まらず、9月30日時点で正規の署名数は6073筆。リコールに必要な法定署名数約86万筆からは遥かに少なく、この頃から田中被告が署名偽造を企てた、と検察側は指摘する。
「さすがにマズイですよね」と指摘したが…
10月8日、山口被告の事務所を訪れた田中被告は「署名の代筆をする人集めをお願いしたい」などと頼んだ。これに対し、山口被告は「代筆はダメですよね」と断る。しかし、田中被告は「しょせん署名なんていちいち確認しないし、こんなことみんな普通にやっている。リコールが成立しなかったら署名簿も戻ってくるので、すぐに廃棄すればバレない」などと説得。名古屋市の河村たかし市長主導で行われた2010年の市議会リコールでも代筆はあったとほのめかしたという。 田中被告は「俺の後援会は個人と会社で、みんな(知事リコールには)賛同している。コロナで人は集められないが、後援会から(代筆の元とする)名簿をもらっている」とも話した。 山口被告は代筆依頼を引き受けない方がいいと思ったが、ビジネスチャンスをつぶしたくないと保留。翌日、田中被告に依頼を受けるための条件として、▽引き受けるならG社(山口被告の会社)ではなくS社(関連の下請け会社) ▽費用は前払い ▽両社は人集めや会場を確保するだけ ▽両社は一切責任を負わない――といった趣旨の4点を明記した発注書を作ることを提示。田中被告が条件をすべて承諾したため、山口被告は依頼を引き受けることにした。 その4日後、田中被告から名簿を書き写す手順などの説明を受けているときに「後援会は何人いるのか?」と聞くと、田中被告は「30~40万人いる」と答えた。そのとき、山口被告は「もしそうなら(元県議だった田中被告は今も)現役の議員であるはずだ」と思い、田中被告の話を「ウソだ」と確信したという。また、氏名などを書き写した署名簿に指印を押すという説明にも、「さすがにマズイですよね」と指摘。「この時点で(違法性のある)クロだ」と感じたというが、山口被告は「これを断るとビジネスチャンスを失ってしまう」と再度思い直し、受け入れることにした。