愛知リコール署名偽造 広告関連会社元社長の初公判で明かされた「生々しいやり取り」
大学受験のような異様な会場の光景に「すごいね」
書き写し作業をする場所は、田中被告が「スパイが紛れ込むかもしれない」として、愛知県から遠い地域を選ぶよう求めた。S社の社員が九州地方で会場を探し、「福岡よりも都会過ぎないが人集めがしやすく、値段が手頃」といった理由で、佐賀市の施設を選んだ。作業に当たるアルバイトに携帯を持ち込んだり、SNSに書き込んだりしないよう求める「秘密保持確認書」も1000枚ほど、田中被告の指示で山口被告側が作成した。 田中被告は発注書に署名、押印し、作業代金474万円のうち、350万円分の小切手を山口被告に交付。10月19日、雅人被告が東京の業者から購入した名簿と空欄の署名用紙などが入った段ボール箱を佐賀市のホテルに運び込み、S社の社員らに「10人分の署名欄に7~8人分を書いたら次へ。とにかくたくさん書かせること」などと指示した。 10月20日夕方、山口被告は現地で名簿類を確認。当初、書き写すのは30~40万人分という話だったが、作業量はそれより明らかに多いと感じて田中被告に問いただした。田中被告は「70、80~100万人分かな。ぜんぶやってほしい。最悪10月末まで大丈夫。お金はちゃんと払う」と説明。こうして、佐賀での作業が急ピッチで始まった。 S社の社員の供述によると、「会場は異様な光景。大学受験のように100人ぐらいが長机で黙々と(署名用紙に)書いている」と表現。その映像を見た田中被告が「すごいね」と声を上げることもあったという。
「残りの代金を払って」「ちゃんと払う」
しかし、作業は膨大で思うように進まなかった。山口被告らは会場の日程やバイト募集を延長、費用は総額で1300万円に上ることになった。山口被告は田中被告から現金700万円の支払いを受けて、10月31日まで作業を続けた。 最終日には雅人被告が段ボールに入れた署名簿を愛知県に持ち帰る。そこからは、名古屋市内の生涯学習センターで仕分け作業や指印を押す作業が始まった。田中被告は、山口被告にも未払い分の費用支払いと引き換えに、指印を押すよう求める。山口被告はいったん拒否し、S社の社長に指印作業を任せたが、11月2日に山口被告本人も指印作業に加わらざるを得なかった。こうして偽造された署名簿は11月3日、高須院長らが「公開集計する」などとして会議場を借りた名古屋市内のホテルのロビーの隅に運び込まれた。 11月4日、山口被告も車に乗って愛知県内の各選管に署名簿を仮提出。こうした追加費用なども含め「残りの代金を払って」「ちゃんと払う」といったやり取りが山口被告と田中被告の間で続く。 仮提出された署名は約43万筆にとどまり、法定署名数に達しない上、無効署名が8割近くになることが徐々に明らかになっていく。