愛知・リコール署名偽造事件 元事務局長が初公判で認否を留保
愛知県の大村秀章知事に対する解職請求(リコール)運動を巡って、署名を偽造したとして地方自治法違反の罪に問われたリコール運動団体の元事務局長、田中孝博被告(60)と次男の雅人被告(29)の初公判が24日、名古屋地裁で開かれた。複数のメディアの報道によると、田中被告は認否について自ら話さず、弁護士が認否を留保し、雅人被告も弁護士を通して「客観的事実は争わない」などと述べたようだ。
傍聴席抽選には10倍近くの列
事件のきっかけとなったリコール運動は、2019年の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展をきっかけに起こった。愛知県選管に提出された署名約43万5000人分のうち、8割超の約36万人分に不正が疑われた前代未聞の事件だ。偽造問題が発覚した当初は、積極的にメディアの取材に応じて、自身の事件への関与を否定していた田中被告。しかし、報道によると、5月に愛知県警に逮捕されて以降は取り調べに対して黙秘を貫いた、とされている。 田中被告は7月に保釈された後も、逮捕前と打って変わってメディアの取材などにはほとんど応じなかった。そんな中で行われる初公判で、被告がどのような主張をするのかに注目が集まり、開廷前に行われた傍聴席の抽選には300人以上が並んだ。しかし、新型コロナウイルス対策で傍聴席の数が38席ほどに制限されていたこともあり、9割近くの人は傍聴がかなわなかった。
被告自身は語らず、動機もいまだ不明確
注目の初公判を傍聴した地元フリージャーナリストの成田俊一さんによると、検察側は冒頭陳述で、目標の署名数が達成できないと考えた田中被告が署名の偽造を画策した、と指摘。雅人被告らと共に昨年10月下旬に佐賀市内でアルバイトに有権者の名前を署名簿に書き写させた、とした。このほか、検察側は東京の名簿業者から愛知県の有権者名簿などを500万円余りで購入したことなども明らかにしたという。 これに対して田中被告は、裁判官から認否を求められても「弁護士の方から説明してもらう」として自らは答えなかった。弁護側は偽造が疑われる署名の数について「根拠がない」などと争う構えを示したという。 成田さんは「田中被告は落ち着いて堂々としているように見えた。ただ、偽造を一から十まで田中被告が主導したという検察側の主張を、田中被告の側が否認ではなく留保したところに、(本音の部分では起訴内容を認めざるを得ないという)苦しさが表れているのではないか。一方、雅人被告の側は、事実関係を認めたと受け止められる。ただ、今日の時点では、動機や金の流れなどについて、はっきりとせず、ますます謎が深まっただけのように感じた」と話した。 なお、田中被告や弁護士は閉廷後も記者会見などは開かなかった。 (関口威人/nameken)