料理で自己肯定感を高めて――「ごちそう」でも「時短」でもない、長谷川あかりのレシピ #食の現在地
「リッチなごちそう」でもなく、「時短ラクウマ」でもない、その中間のレシピが今、反響を呼んでいる。「仕事終わりでもさくっと作れる」「少ない材料で本格的」「かけた手間を超える味」と感想が寄せられるのは、料理家・長谷川あかりさん(28)のレシピ。「料理をすることで、自己肯定感を高められたら」という思いからSNSでレシピを発信し始めると、たちまち人気を集め、本の出版も相次いでいる。今、どんな家庭料理が求められているのか。長谷川さんに尋ねると、せわしない日々の食卓を豊かにするヒントが見えてきた。(撮影:西田香織/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
共働きなのに、「ごはん作らなきゃ」の使命感
「材料や工程が少なくて、材料表やレシピを見た時に心が折れないようにすることはすごく意識しています」 長谷川あかりさんのレシピや本を見ると、「クタクタ」「しんどい」「いたわる」「心と体を満たす」といった言葉が目を引く。レシピをSNSに投稿し始めた当初、「こんな人に届いてほしい」というイメージが明確にあった。 「20~40代の女性の中には、『母親が専業主婦で父親は家事にノータッチ』という家庭に育って、なんとなく料理は自分がするものと思っている人が結構いると思います。子どもの頃は親にあったかいごはんを用意してもらっていたし、自分も子どもにそうしてあげたい。でも働いているから、家事に割けるリソースは減っているんですよね」 長谷川さんが生まれたのは1996(平成8)年。自身も母親が専業主婦の家庭で育った。家庭のあり方は昭和、平成、令和と移り変わっている。昭和の頃は専業主婦世帯が共働き世帯より多く、平成の間に逆転し、令和の今は共働き世帯が倍以上だ(総務省「労働力調査」)。 「時代が変わっても、思い描く理想はまだ変わっていない。料理に対して当事者意識があって『自分が作らなきゃ』という使命感を持っているのに、使える時間はない。そういう理想と現実のギャップに悩む人を手助けしたいと思いました」