日本独自の食文化?おかずを食べて白飯を食す「口内丼」に賛否 #食の現在地
インバウンド観光客の増加に伴って、日本食にも注目が集まっている。中でも外国人の多くが驚く食べ方がある。「口内丼」だ。おかずを先に口に入れて咀嚼、その後、白飯をいれて「口の中で丼を完成させる食べ方」のことだ。定食屋などではしばしば見かける光景だが、世間的にはマナー違反と指摘されることがあるらしい。皆さんはどのようにして白飯を食べているだろうか。口内丼派? おかずをのみ込み、余韻で白飯を食べる派? それとも、おかずと白飯は完全に分けて食べる派? 「行儀が悪い」と指摘する人もいれば、「日本の文化」と言う人もいる。果たして口内丼はマナー違反なのだろうか?(取材・文:山野井春絵/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「口内丼」に賛否両論
焼き肉屋に行って白飯とともに肉を食べる時、どのようにして食べるだろうか。カルビをタレにつけたあと、ご飯の上で「ワンバウンド」させて口に運び、数回噛んだ後、すぐさま白飯をかきこんだ。さらに噛みしめて、おかずとご飯の混ざり合いを楽しむ。 その食べ方、もしかしたら「マナー違反」に当たるかもしれない。「口の中を見せて食すことはマナー違反」という根強い考えがあるからだ。一方で「給食では“三角食べ”(おかず、ご飯、汁物を三角を描くように順番で食べ進める方法)が推奨されていることから、問題ない」という声もある。果たして口内丼はマナー違反なのだろうか。
「口中調味」の論文を書いた専門家は
「日本では昔から、白飯とおかずを交互に食べて、口の中に残るおかずの味で白飯を味付けしながら食べる『口中調味』がなされてきました。白飯・おかず・汁で構成される食事様式は、だいたい室町時代に完成したと言われています」 そう語るのは、広島国際大学健康科学部医療栄養学科の准教授、木村留美さん。「口中調味」は日本固有の食事法であるとし、論文を共同執筆した(「口中調味の実施状況が白飯とおかずを組み合わせた食事での白飯のおいしさに及ぼす影響」)。 「あくまでも、口中のおかずの余韻で白飯を食べるというのが、論文における口中調味の定義です。たとえば、味噌汁と白飯を交互に食べるとき、味噌汁を飲み込んだ後に、残った味で白飯を食べるというのが口中調味の前提になっています。『口内丼』という言葉は私も初めて聞きましたが、おかずが残っている状態で白飯を入れるのは口中調味の一種です。食べ方、マナーの問題かと思いますが、一緒に食事をしている方を不快にさせないように行うのが一般的ではないでしょうか」 木村さんは、女子学生、約400名を対象に、「口中調味」の実態を調査。口中調味を日常的に実施していると答えた学生は74.8%、実施していないのは25.5%という結果が得られた。 実施する理由としては、学校給食で指導された「三角食べ」や「稲妻食べ(白飯とおかずを交互にジグザグ食べる食べ方)」など、食べる順番の教育が影響したと推察している。また、家庭において、家族の食べ方を自然と真似ることで、口中調味を身につけた背景もある。 一方、25%の実施しない群だが、理由としては、「習慣がない」「ひとつだけの味で食べたい」が大半。なかには「食器を持ち替えるのが面倒」と答えた人もいた。 調査するうちに木村さんは、学生たちの米の摂取量がかなり少ないことに気づく。 「実際に学生たちを見ていると、パンや麺など小麦を好み、白飯はあまり食べない人が多くなっている印象ですね。私たちがたとえば学生の給食献立を作成する場合、基本的に白飯で180gを設定するのですが、普段はそこまで食べていないんじゃないでしょうか? もしかしたら一食で100gを下回る人もいるかもしれません。そうなると白飯とおかずをそれぞれ単独で食べるようになるのかもしれません」 コメの消費量が減っている今、「口中調味」の文化は衰退してしまうのか? 「人それぞれ、食べ方はもちろん自由です。日本の伝統的な食事様式である口中調味は、白飯をおいしく味わう工夫。ぜひ今からでも身につけてほしいと思いますね」