料理で自己肯定感を高めて――「ごちそう」でも「時短」でもない、長谷川あかりのレシピ #食の現在地
芸能活動をする生徒が多く通う高校で、同級生には上京して一人暮らしをしている子やダイエット中の子がいた。長谷川さんは友達に料理を作って渡すようになる。 「友達が、お昼はプチトマトとこんにゃくだけで帰りにフラペチーノを飲む、みたいなよくわからない食生活を送っていたので(笑)。おにぎりやもち麦入りのスープ、サラダなどを作って、学校に持っていきました。授業中、ノートの端に『これとこれを合わせたらおいしそう』と食材の組み合わせを書き出して、次の日にやってみたり」 ストレス発散のための料理で周りの人も喜んでくれ、長谷川さんのメンタルは改善されていったという。この体験が今もレシピ作りに根づいている。 「自分の生み出したものが目の前にあり、それを食べて自分も人も満たされるというのは、料理特有の面白さですよね。自分が価値のある人間に思えて、自己肯定感を高められる。心を満たしながら、気がついたら健康的な料理が好きになり、体調も整っていく。そういう幸せを、レシピを通してシェアしていきたいと思っています」
食べる側も料理の「当事者意識」を持って
長谷川さんが勧めるのは、「自分のためになる相手のため」だ。「相手のため」だけだと負担になって、続けるのがつらくなる。 「『おいしいと言ってもらいたい』という気持ちは普遍的ですし、料理は『自分さえよかったらよくない?』とはなかなか言いづらかったりしますよね。相手のために作る時も、自分のためになるならいいんじゃないかな、と考えています。時々、『旦那さんの帰りが遅くてご飯の支度がしんどいのですが、そういう時はどうしていますか?』と聞かれることもありますが、夫は大人ですから(笑)、私は用意しなくていいかなと」 食べる側の意識が変わっていくといいとも考えている。 「何のリアクションもないとよく聞くので、褒める文化が浸透していくといいですよね。『ありがとう』『おいしいね』という一言で、作る人の自己肯定感はもっと高まります。買ってきたお惣菜も、そのチョイスを褒め合えたら」 食べる側にも料理の「当事者意識」があれば、食卓はもっと豊かになる。 「作る人が料理の全責任を負いがちなんです。味つけも完璧に仕上げて出さなきゃと思っていたり。もっとラフに、アレンジする前提で食卓に出してもいいんじゃないかな、と。食卓でみんなで一緒に味を探していくのも面白いはず。『タバスコかけるとおいしいよ』とか、『この組み合わせもいいかも』とか。そういう会話も楽しめたらいいですよね」 日々、自分たちの食卓で作り上げていく理想の味。そのプロセスが心を満たすに違いない。