料理で自己肯定感を高めて――「ごちそう」でも「時短」でもない、長谷川あかりのレシピ #食の現在地
レシピも日々の食事も、メリハリ、取捨選択が重要だと考えている。 「食に期待しすぎている風潮があると思います。毎日バラエティー豊かな料理を作ろうとしても、今はリソースがないのだから何かを削らないとしょうがないですよね。これって、塩分量と似ていると思うんです。全部の料理が塩分控えめだと不満がたまるらしいのですが、同じ塩分量の献立でも、メインにしっかり味がついていて副菜が薄味だと満足度が高いそうで。日々の食事も、今日は納豆ごはん、明日は自炊をがんばって、明後日は外食。それでいいと思います」
苦悩した10代、料理が自己肯定感を高めてくれた
外食でありとあらゆる料理を楽しめるなか、別に自炊しなくてもいいと考えているが、買えない味や体験は確実にあると話す。 「自炊のよさは、自分の好みや体調にカスタマイズできること。料理にはセルフケアという価値があります」 長谷川さんは、「料理をすることで、自己肯定感を高められたら」という思いからSNSでレシピを発信し始めた。自身が10代の頃、料理に救われた経験があるからだ。長谷川さんは10歳から子役・タレントとして活動していたが、高校生になると、仕事に悩みを抱えるようになった。 「子役から大人への移行がうまくいかなくて、仕事がなくなったり、オーディションに受からなかったり。ストレスで食欲がなくなってしまった時期がありました。それで父親と古本屋に行って、レシピ本コーナーで『これだったら今の私でも食べられるかな……』という料理を探して。買いあさったレシピ本を見て、ひたすら作りました」 レシピ通りに作ることで未知の味に出合う面白さに開眼する。当時は時間と手間がかかればかかるほど、ストレス発散になった。 「塩漬けにしたお肉をオーブンで焼いて、一日煮込んだり。料理がメディテーションのような感じでした。芸能活動は正解がなくて、どうすれば自分が必要とされる人間になれるのかわからなかった。でも料理は、誰かに振る舞うとやたらと喜んでもらえる。自分には価値がないんじゃないかと思ってすり減っていた心を、料理が埋めてくれたんです」