日銀「7月の追加利上げ」確率は上がった? 所定内給与の伸びと進む円安
日銀は先月、マイナス金利政策を解除しましたが、市場では次の利上げシナリオに注目が集まっています。円相場が34年ぶりの153円台まで進行する中、追加利上げはどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】日経平均が史上最高値更新 日本でも欧米並みの賃金インフレが起こる?
所定内給与が2%超アップ、日銀は自信?
4月8日に発表された毎月勤労統計は日銀の早期利上げ確率をやや高めたと判断されます。筆者は次回の利上げ時期を賃金・物価データの蓄積が進む10月との予想を維持していますが、7月にも日銀が動く可能性はあるでしょう。 春闘が反映される前の段階である2月の一人当たり賃金は、所定内給与(≒基本給)が前年比+2.2%と節目の2%を超えました。伸び率が高まった確かな理由は不明ですが、新年度入りした12月決算企業の(新年度)賃金が統計に完全に反映された可能性が指摘できます。この指標は(月末に発表される)確報で下方修正される傾向にあることから速報値の強さは割引いて考える必要がありますが、それでも賃金上昇の足取りがしっかりとしてきたことを印象付けます。 所定外給与(≒残業代)が同▲1.0%と減少したことによって現金給与総額は同+1.8%に留まったものの、賃金の根幹である所定内給与の伸びが高まったことはインフレの持続性を高めると判断して良いでしょう。基調的な賃金を読む上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は同+2.4%へと伸びを高めました。日銀は賃金を起点とする物価上昇に自信を深めたと思われます。
追加利上げ可能性、あえて「夏」にも言及
植田総裁は3日に朝日新聞の単独取材に応じ、2%の物価目標達成の確度がさらに高まれば、追加利上げを検討するとの認識を示し「夏から秋にかけて春闘の結果が物価にも反映されていく中で、目標達成の可能性がどんどん高まっていく」と発言しました。あえて「夏」に言及したのは7月の追加利上げを市場参加者の予想の「選択肢」に加えておきたいという意図があったように思えて仕方がありません。 もっとも、次の利上げはマイナス金利解除とは異なり、変動型の住宅ローン金利の上昇を招くなど、相応の引き締め効果が予想されます。変動金利型の住宅ローン契約者の多くが金利上昇を初めて経験することになるため、わずかな利上げが将来の不透明感増幅を通じて過剰な生活防衛につながってしまう可能性は否定できません。夏には定額減税(6月以降に支払われる給与等から所得税・住民税が4万円減税)の効果が期待できるとはいえ、電気・ガス代の負担増加(再エネ賦課金の増加、政府支援の段階的終了)もあり、個人消費の停滞が長期化する恐れがあります。日銀が個人消費の先行きをどう判断するかが金融政策を読む上で重要になってきそうです。