「キラキラ女子」だった電気工事会社3代目の改革 「安心して失敗できる」研修棟で若手を育成
福島県西郷村の東陽電気工事は1933年の創業以来、電気工事で地域のライフラインを支えてきました。3代目の石川格子さん (41)は父の後を継ぎ、30歳で3代目社長に就任しますが、社内改革への反発から大量離職も招き、採用しても定着しないという課題を抱えました。従業員数8人の規模ながらも、人を育てる経営に変革するため、2021年、敷地内に研修棟を建設。「安心して失敗できる環境」を用意して、若手の早期戦力化が進み、業績アップにもつなげました。同業他社などからの研修も有償で受け入れ、業界の底上げも図ろうとしています。 「技は見て盗め」ではない人材育成のコツ 中小企業の事例集【写真特集】
「経営もわからないキラキラ女子」
「お前じゃ話にならないから帰れ!」 家業に入ったころ、見積書を持って訪れた取引先で、石川さんは厳しい言葉を突きつけられました。化粧は濃いめ、きれいな縦巻きにセットした髪にネイルもバッチリ決めた彼女を、誰も本気で相手にしてくれませんでした。 「学生のころは会社を継ぐ気はなく、玉の輿に乗って専業主婦になりたいと思っていたんです」。そんな彼女は、高齢の父が経営する会社の危機を知り、26歳で電気工事の世界に足を踏み入れました。 2013年に30歳で3代目社長に就任。「バリバリ働くキャリアウーマンにあこがれていたから、社長という肩書が魅力的でした」と笑い、自身を「経営もわからないキラキラ女子だった」と振り返ります。 現在は就任12期目。2023年度の売り上げは3.3億円、従業員の平均年齢は31.5歳と若返り、経営基盤を安定させました。少子高齢化による若手の人材不足や長時間労働が課題の建設業で、育成を軸に独自の経営モデルを築き、新風を吹き込んでいます。
存続危機で後継に名乗り
東陽電気工事は1933年、東京に本社を置く東光電気工事の白河出張所として始まり、1965年に株式会社化しました。公共・民間の電気設備工事、送電線の設置やメンテナンスなど幅広い実績を誇り、福島県白河市周辺の地域インフラを支えてきました。 三女の石川さんは父が48歳のときの子で、年の離れた姉が2人います。父は中学生のころから創業者の祖父を手伝い、苦労人でした。仕事の話は家に一切持ち帰らず、幼いころの石川さんが事業内容を知る機会はほぼなかったそうです。 一方、専業主婦として家庭を支えていた母は「とりあえずやってみたら?」が口ぐせ。失敗を恐れずチャレンジできる環境で育った彼女は、自由にやりたいことを謳歌して成長しました。大学では心理学を専攻し、カウンセラーを目指すも就職は狭き門で挫折。卒業後はUターンし、福島県郡山市で塾講師を4年間務めました。 石川さんは週一度は実家へ帰り、縁側で父と話をしたそうです。70代になった父は、家族の前で経営の不安を漏らすことはありませんでしたが、姉は家業を継ぐ気はなく、第三者承継も難しかったため「会社を畳むしかない」と思っていたようです。 「それなら私がやってみたい!」。後継に名乗りを上げたのが、当時26歳の石川さんでした。電気工事業に女性が入りにくい雰囲気であることは考えもせず、「社長ってかっこいい!」という好奇心で飛び込みました。