「キラキラ女子」だった電気工事会社3代目の改革 「安心して失敗できる」研修棟で若手を育成
採用を強化しても定着せず
まともに同業者と戦っても勝ち目はないと考えた石川さんは、業界の人材不足に着目し、採用を強化しました。 もちろん就任後から採用に力を入れてきました。企業説明会への参加、高校への求人票提出、新聞折り込み、求人サイトへの登録などを試行。中でも求人サイトからは年100人が応募し、5人ほどを採用。しかし、結果的には全員辞めてしまいました。石川さんは、人材が定着しないのは社内に人を育てる人材が整っていないからと気づきました。 しかし建設業は、残業規制の厳格化や土日の仕事を制限される流れが進み、限られた現場作業で、育成に割く時間を確保するのが難しいという課題がありました。 そこで、自社に研修棟を作る決断を下します。きっかけは、パートナー企業である東光電気工事の研修施設に従業員を送り込んだことでした。 「研修を受けさせるだけでなく、その前後に自社できちんと指導するのが理想だと思いました。職人育成には、5~10年はかかると言われます。けれど『見て覚えろ』という昔ながらのやり方ではなく、自社で技術と知識をしっかり教え込むことで、早期に現場に送り込めると考えたのです」 公共事業が主力の東陽電気工事は、4月~6月が閑散期になります。売り上げは立ちませんが、職人たちが手を止めて仕事を教えるのに適したタイミングです。石川さんは振り切って、閑散期を従業員育成の期間にあてようと考えました。
電柱や配線設備も備えた研修棟に
2021年8月、融資を受け、2階建ての研修棟(延べ床面積約70平方メートル)を立ち上げました。研修棟を新たに作るほど業績が良かったわけではなく、リスクを伴いましたが、石川さんには人材育成への強い覚悟がありました。 「現場では時間の制約があり、失敗は許されません。うちのような小さな会社が研修棟を持つのはまれかもしれませんが、若い世代が安心して失敗できる環境を作りたかったんです。現場と区別された安全な学習環境があれば、じっくり技術を教えられます」 建物内には、電柱や信号機、ケーブルラックといった様々な設備があります。昇柱や天井墨出し、間仕切り配管なども用意。基礎から実践的な技術まで学べる教育設備を整えました。 研修棟では、新入社員にまず1カ月間の新人研修をします。壁天井墨出しから天井内配線、電柱昇降、ケーブルラック配線、分電盤結線などの電気工事の知識や技術、マナーを自社の職人がひと通り教え込みます。すると、早期から新人を現場に送り込めるようになり一定の成果が得られました。 石川さんは自社のみで研修棟を使うのはもったいないと考え、試しに講師付きの研修パックとして有料で受け入れました。 すると県内同業者が初年度から利用し、口コミから2024年は4社を受け入れました。「もともと業界の横のつながりを強化したいと考えていたので、思わぬ効果が出た形です」 研修棟の効果はそれだけではありません。採用コストをかけずとも人材が集まるようになり、研修制度がしっかり備わっているという安心感から、地元の工業高校の定期的な応募が舞い込むようになりました。