「キラキラ女子」だった電気工事会社3代目の改革 「安心して失敗できる」研修棟で若手を育成
入社して見えてきた課題
石川さんは2010年に入社。一部の従業員には歓迎されたものの、大半は無反応でした。「何しに来たんだという雰囲気で、口も聞いてくれず、目も合わせてくれませんでした。知識も資格もない、なのに化粧とネイルはバッチリ決めていたので、当然かもしれません」 クライアントからは見積書を突き返され、必死に仕事を覚えても認めてもらえない日々が続き、石川さんは「何をしたら人に話を聞いてもらえるようになるか」を考えたそうです。専門知識を身につけようと、猛勉強で電気工事士資格の第二種、第一種を取得。そこから周囲の目も変わったといいます。 経験を重ねるにつれて見えてきたこともありました。有給休暇を取りにくい風土や年功序列の給与体系で従業員のモチベーションが上がらず、加えて小さな会社ながらも派閥があり、円滑なコミュニケーションが取れませんでした。 社内改革をしなければ未来はないと直感した石川さんは、ボトムアップ経営を目指しました。そのころは、長い間トップダウン経営を続けてきた父との口論も絶えなかったといいます。「月曜日に出社するのが楽しみになるくらい、やりがいのある環境にしたかったんです」 2013年、父から経営権を引き継いで社長となり、社内改革を進めました。
離職が続いても心は折れず
石川さんは年功序列から人事評価制度に基づいた給与体系に変更し、就業規則も改定しました。しかし、世代交代の2年後には、「ついていけない」「俺は先代派だから」と、不満を持った従業員の大半が辞めてしまいます。 過度のストレスから全く声が出なくなることもありましたが、不思議と心が折れませんでした。「ここから息を吹き返したら、かっこいいじゃないですか」 とはいえ、建設業界の経営者は60~70代の男性が中心で、経験が少ない女性社長の石川さんは孤立。業界の集まりでも、経営者同士の会話に入れませんでした。彼らと同じ土俵に立つには経験値を上げるしかありません。時間の差は埋められないので、経営の専門知識を短期間で身につける方法を探したといいます。 そこで石川さんは2015年、東京の大学院に入学。200~250社の創業ストーリーや経営状況を読み解いて、判断力を学びました。 平日は仕事で土日に東京へ通学。課題やレポート作成に追われ、睡眠時間は1日3時間。通学期間には出産も挟み、2年半かけて経営学修士(MBA)を取得しました。「まだ経営をすべて理解できたわけではありませんが、やりきったことで自信がつき、そこからは全速力で社内改革に踏み切れました」