山形は"ニットの聖地"。紡績から製品づくりまで手掛ける老舗メーカーが製作した渾身のニットとは?
佐藤繊維のオリジナルブランド「991」とは
佐藤さんの曽祖父が佐藤繊維を起こしたのは1932年。まだ手で糸を紡いでいた時代だ。祖父がそれを工業化し、紡績工場を建設した。父の時代にはこれからは糸づくりだけではいけないとニット製品の製造も始めた。つまり佐藤繊維は古くからウール等の紡績からニットの生産まで手掛ける、日本でも数少ないメーカーのひとつだと断言できる。しかしながら4代目の佐藤さんが会社を継いだころは、山形や日本のニット産業は衰退期に入り、多くの会社が生産拠点をアジアに移動し、最盛期には400社あった山形のニットメーカーも20数社に激減、ニットの国内製品への需要も減った。 そんな厳しい状況の中、佐藤さんが目を向けたのは海外。原毛を採れる世界中の産地に自ら足を運んで良質な糸を紡績した。「トレンドは追いかけない。唯一無二の糸を紡ぐ」。これが佐藤さんのものづくりのポリシーだが、そんな情熱が伝わったのだろう、海外の展示会に出展すると佐藤繊維がつくった個性豊かな糸は注目を集めるようになり、有名メゾンからの注文が直接山形に届くようになった。 991(キューキューイチ)は紡績ニットメーカーとしての長年の糸づくりやニット製作を通して培った技術やアイデアを結集した、佐藤繊維のオリジナルブランドだ。デビューは2016年で、コンセプトは「NEW CLASSIS」。ベーシックなデザインと最新のテクノロジーを組み合わせたコレクションで、オリジナルの糸づくりから新しい編地の開発、さらには従来のニット製品ではなし得なかった布帛のパターンを追求した縫製など、世界中のウールを熟知する佐藤さんの渾身の作品で、内外で高い評価を得ている。数字を用いたブランド名は山形県寒河江市のポストコード、つまり郵便番号で、佐藤さんの地元・山形に対する想いが込められているようだ。 佐藤繊維 TEL: 0237-86-3134
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一