お手頃ランチに忍び寄る「インフレ」 一杯の豚バラ丼から見えた日本経済の苦境
日本に染みついたデフレ体質
もちろん、インフレの動向は各国とも警戒している。アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は今月3日、量的緩和の規模を段階的に縮小する「テーパリング」の開始を決めた。いよいよ世界経済は、コロナ禍のマネー供給路線から出口戦略を見据え始めている。とはいえ、アメリカの先月の消費者物価は前年同月比で6.2%上昇し、ほぼ31年ぶりの高い上昇率を記録している。インフレの加速に予断を許さない状況が続く。 戻らない客足に苦しむ西嶋さんの南藤沢店を再び訪ねると、覚悟を決めた表情で迎えてくれた。「値上げします。それしか他に選択肢がない」。11月8日、看板メニューの豚バラ丼セットのランチ価格を開店以来、初めて1000円超えの1067円(税込み)に設定した。従業員の雇用と、自らの店を守るための苦渋の決断。毎朝自宅近くの神社で神頼みしながら、この難局を打開できるよう祈っているという。
「値上げについてはお客様に判断していただくことなので、どうなるかは分かりません。ただ日本は長くデフレが続いてきて、特に飲食業界は薄利で堪え忍ぶことが常識になってしまっていた。このままでは業界がもたないし、日本の食文化も絶えてしまう。コロナを機に、日本に染みついたデフレ体質を突破しなければ、という危機感はあります」
世界の景気回復の波に乗り切れず、インフレ圧力に直面する日本経済。賃金が上がらない中で、これまでのように支出を抑えて我慢を続けるのか、それとも社会全体で経済の好循環への歯車を回す努力を始めるのか。コロナからの立て直しは、われわれ一人ひとりの意識の変化にかかっているのかもしれない。