次の地震は本当に来る?「予知」できない地震への防災対応を考える
南海トラフ沿いで大地震発生の可能性が高まっている場合には、津波に備えて1週間避難する――。 【図】南海トラフ地震 「臨時情報」空振りも地震対策強化につなげる姿勢が肝心 昨年12月、内閣府の中央防災会議は、南海トラフ沿いの地震に関して気象庁が「臨時情報」を発表した際に、住民や企業がどのような防災対応をとるべきか基本的な方向性を示した指針をまとめました。冒頭はその内容の一部です。「地震はいつ起こるか分からないから、常日頃から備えよう」と一般的に言われますが、方針では、まだ発生していない地震に対して、警戒期間を定めた避難という実行動が求められています。 未来の地震に対して具体的な防災対応を取れるほど、科学は地震を理解し始めたのでしょうか。方針の科学的根拠を紐解くと、私たちが向き合わねばならない地震防災の難しさが見えてきました。
現在の科学で“地震予知”はできないが……
まだ起こっていない地震に対して、国が具体的な対策方針を決めました。これは「いつ」「どこで」「どれくらいの規模」の地震が起こるのかを、精度高く予測する「地震予知」が可能になったことを意味するのでしょうか? 残念ながら、そうではありません。かつては地震予知が可能であることを前提として、防災対策が策定されていた時期もありましたが、現在ではその可能性ははっきりと否定されました。 現在の科学でかろうじてできるのは、過去の傾向をもとにした”予測”です。 そもそも地震とは、地下の断層がずれ動いた際の振動が地表まで伝わって地面が揺れる現象です。仮に、とある断層が110~150年ごとにずれ動き、M(マグニチュード)6前後の規模の地震が繰り返し起きていたとします。最後の地震から100年経過していたら、「明日なのか数十年後なのかは分からないけど、そろそろ次の地震が来てもおかしくない」と推測できます。これが“予測”です。 私たち人間の時間感覚からすれば、「数日」後か「数年」後かは大きな違いです。しかし、命あっての物種。常日頃からの備えは入念にした上で、現在の科学で分かっている範囲の「曖昧な情報」も積極的に活用し、少しでも多くの命を救えれば――。そういった考えの下、地震予測の知見が南海トラフ地震の防災対応に取り入れられました。