次の地震は本当に来る?「予知」できない地震への防災対応を考える
「避難しても来ない」かもしれない地震とどう向き合う
3つのケースの根拠となるデータを見て、どんなことを感じたでしょうか? 次の地震が発生する可能性が最も高い(1)の「半割れケース」でも、通常よりも100倍高いとはいえ、数十分の一ほどの確率です。「低い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、地震はひとたび起これば命に直結する災害でもあります。命を守ることは何よりも優先すべきですから、避難しても結果として1週間のうちに地震が来ない可能性があることを受け入れる必要があります。被害が甚大でありながら、起こるかどうか明確には予測できない地震という災害の性質を受け入れ、向かい合えるかどうか。これは、私たちの課題の一つでしょう。 また、地震活動が「地質学的」なタイムスケールで起こることにも向き合わねばなりません。前述の通り、南海トラフ沿いで過去に連動して起きた直近2事例では、最初の地震から次の地震までの間隔がそれぞれ32時間と2年でした。地質学的なタイムスケールではどちらも「ほぼ同時」ですが、人間が感じる長さとしては大きな違いがあります。次の地震が数日後なのか数年後なのかが分からない状態で、どのような行動を取るべきか判断するのは、容易ではありません。しかし「臨時情報」が発表されるその時が来たら、判断しなければならないのです。 加えて、百年千年万年単位で繰り返す地震の歴史に比べて、人間による地震研究の歴史はまだ浅く、限られた数のデータで推定された発生確率などの数値は、当然のことながら不確実性を伴います。社会への影響が大きい対策を考える場合は、それも考慮する必要があります。 今後、まとめられた昨年末の政府方針をもとに、3月までに具体的な防災対応のためのガイドラインが策定され、それに基づいて各自治体が避難計画などを定める予定です。 地震という災害に私たちはどのように備えるべきか。日本にいる以上、地震は避けようがありません。南海トラフから離れた地域に住む人も、東日本大震災から8年目を迎えるこの機会に、一度考えてみませんか。 《参考文献》 ・2018年12月 内閣府 中央防災会議 南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応WG「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応の在り方について(報告)」 ・2013年5月 内閣府 中央防災会議 南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会 「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について(報告)」 ・2017年8月 内閣府 中央防災会議 南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について(報告)」 ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 坪井淳子(つぼい・じゅんこ) 1989年、愛知県生まれ。専門は地学。民間気象会社での勤務を経て、2016年より現職。気象予報士。防災士