昭和という時代、DJタカハシによるプレイで浮かび上がる―高橋 源一郎『DJヒロヒト』永江 朗による書評
帯の裏表紙側にたくさんの人名が並んでいる。井上毅、井上靖、大岡昇平、小笠原長生、小田実、折口信夫……まだまだ続く。これらの人々が書いたことや言ったことや考えたこと、行ったことなどを、大きな鍋に入れてかき回し、じっくり煮込んだような長編小説。 巻末に「参考文献について」という著者による文章がある。<本作では多数の参考文献を使用している。(中略)その資料の扱い方は、著者の以前の作品、『日本文学盛衰史』を踏襲している。すなわち、それらの資料は、そのまま引用されることも、一部を変更して引用されることも、大部分を変更して引用されることもある。(中略)すべての資料は、DJがレコード音源を自由にリミックスするように使われていることを明記しておく>と書かれている。 昭和という時代に何が起きたのか、それが文学や文学者とどのような関わりを持っていたのかが、DJタカハシによるプレイで浮かび上がってくる。ヒロヒトの時代は戦争の時代だった。彼がそれを望んだかどうかはともかくとして。たくさんの人が死んだ。殺した人。殺された人。本作は慟哭(どうこく)と追悼の音楽だ。 [書き手] 高橋 源一郎 1951年、広島県尾道生れ。1981年、小説『さようなら、ギャングたち』でデビュー。1988年、『優雅で感傷的な日本野球』で第一回三島由紀夫賞、2001年、『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、2012年、『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞。2011年から朝日新聞論壇時評担当、それをもとに、『ぼくらの民主主義なんだぜ』、『丘の上のバカ』を刊行。2012年からNHKラジオ第1「すっぴん!」金曜日・パーソナリティ。現在、明治学院大学国際学部教授。 [書籍情報]『DJヒロヒト』 著者:高橋 源一郎 / 出版社:新潮社 / 発売日:2024年02月29日 / ISBN:4104508039 毎日新聞 2024年5月18日掲載
高橋 源一郎
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