なぜNBAラプターズの渡邊雄太はトロントで“時の人”となっているのか…無保証の最低年俸から高まる本契約の可能性
1年目、渡邊がチームの要としてシーズンの大半を過ごしたグリズリーズ傘下のGリーグチーム、メンフィス・ハッスルがプレーオフに進出した。その時の渡邊と言えば、とにかくプレーオフを戦い抜きたい思いでいっぱいで、言葉の端々からハッスルの試合の時だけはNBAではなく、Gリーグにいたいという熱い気持ちが見て取れて、思わず笑ってしまったことがある。 しかし、自分がチームの主力だという責任感、勝つために必要な選手として起用される使命感ほど選手に動機を与えるものはない。グリズリーズでは、勝敗のかかった場面で起用される可能性がほぼ皆無だった当時の状況を考えると、渡邊が「この日だけはハッスルでやりたい」と考えたとしても当然のことだ。 そのグリズリーズでは、2年目にゼネラルマネジャーとヘッドコーチが変わって出場時間が減り、渡邊自身も「正直、この位置は僕じゃなくてもいいんじゃないかなと思ったこともありました」と言う。そんな中、出番がなかったり出場時間が限られた試合後にアリーナ内にある練習場でシューティングを繰り返した。練習を終えた時には、アリーナは掃除も終わって静まり返っていた。遠征中はそういった練習はできないが、渡邊が常に練習したがっていることをコーチもわかっていたため、リハビリ中の選手がチームと別で練習する時などは渡邊に声をかけてくれた。2年目に向けてのオフ、渡邊があまりにも毎日ハードに練習するため体重が増えないことを心配したコーチが練習施設に来ないよう告げたこともある(なんと、その結果体重が増えた)。出場機会がなければ練習をする。実力を証明したければ練習しなければ。それが渡邊の姿勢だった。 今の渡邊の活躍を見て、グリズリーズでの2年間が無価値だったように思う人もいるかもしれない。しかし渡邊は、すっかり体が冷え切った試合終盤まであるかどうかもわからない出場機会をひたすら待ち、結果の残しにくい時間帯、状況で結果を出すことを強いられながら、成功に繋がる方法をひたすら考え突き進んできた。その成果が今表れていると言っていい。