なぜNBAラプターズの渡邊雄太はトロントで“時の人”となっているのか…無保証の最低年俸から高まる本契約の可能性
ラプターズとは、もともとキャンプ参加を前提とした無保証の契約で、シーズン開幕までに解雇されてそのままGリーグに送られるというのが大方の見解だった。しかし渡邊自身は、そうではなかった。「ディフェンスをまずしっかりやって、あとスリーポイントを高確率で決められれば、必ずチャンスは貰える」と自信を滲ませていた。試合でどれだけチャンスが貰えるかわからない分、練習からアピールすることはグリズリーズ時代に繰り返してきたこと。それがニック・ナースHCに「嬉しいサプライズ」と言わせるほどの関心を引くことに繋がり、オープン戦デビューでいきなり後半スターター出場という役目を任された。過去2年にはなかった出場の仕方だったが、渡邊は最初に放ったスリーポイントを決めるなど、第3クオーターをフル出場で5得点4リバウンド。このスタートからすべてが上向いた。 ラプターズには渡邊のようにドラフト外からNBA入りし、大成功した選手がいる。2日のマジック戦でチーム新記録となる54得点を挙げたフレッド・バンブリート。渡邊と同じようにトレーニングキャンプでロースター枠を争う立場からここまで来た。バンブリートは当時を振り返り、「すべてが自分の思うように起こるとは限らない。だから我慢し、ビジネスを理解しようとした。自分の思うようにいかないことに大した理由はなく、まだ自分の番ではないだけなのだと、ひたむきに練習に打ち込むことは簡単なことではなかった。でもチャンスがきた時は最高の力を発揮しようとした」と話す。彼が活躍している姿は、渡邊にとっても大きな刺激と励みになるはずだ。 ロースター入りを目指す立場からツーウェー契約を勝ち取り、戦力として活躍できることを証明した渡邊。次の目標は、必然的にNBA本契約となる。ラプターズは先月19日に本契約のセンターを解雇したことで枠が一つ空いた。ナースHCはその穴を埋める選手として「ウイングか3番(スモールフォワード)、4番(パワーフォワード)、5番(センター)。サイズのある選手」と話していたが、以降枠は空いたままだ。この穴を他選手で埋めることになるかどうかは分からないが、渡邊がこのままベンチ入りを続けた場合、今季定められた最大50試合の出場選手登録に近づいた時にチームが渡邊の去就を決めなければならない時がくる。ここまで主力の欠場時にしっかり穴を埋め、ディフェンスの欠如した部分をカバーし、ハッスルプレーでチームに活気をもたらし、試合に出場するたびチームメイトとの調和を深めてきた渡邊。特にディフェンスのシステムが複雑で覚えるのが難しく、それができないためにシュート力があっても出場機会を貰えない選手がいるラプターズにおいて、渡邊がナースHCからの信頼を得ていることは大きい。2年前のチャンピオンであるチームは今季スタートは不調だったが、同HCはその中でも明るい材料として渡邊の名前を挙げていたほどだ。 それを考えても、渡邊のラプターズとの本契約はあると予想する。万が一、将来渡邊がラプターズを離れるということがあったとしても、他のチームが渡邊にチャンスを与えるとみる。渡邊がラプターズに持ち込んだ新風は、それほどのインパクトを与えているはずだ。 (文責・山脇明子/米国在住スポーツライター)