なぜ女子レスリングのリオ五輪金メダリスト土性沙羅はメダルに手が届かなかったのか…敗因に故障と新型コロナ禍の影響
敗者復活戦では中国の周風(27)にはタックルが決まり、7-2の判定勝ち。この様子には、ホッと胸をなで下ろした人も多かっただろう。 そして、冒頭の3位決定戦を戦った。 ケガから復帰してきた土性は、「組み手を練習して、違う戦い方を身につけたい」と言ったり、「タックルで得点したい」と以前と同じ戦い方を目指すと言ったり、一見、相反するプランを交互に語ってきた。おそらく、どちらも本音なのだろう。 自分で以前のようには動けないことを承知しているから、新しい戦い方を身につけたいが、一方で子供の頃から信じリオ五輪で金メダルをとった戦い方も捨てられない。スタイルが固めきれなかったのは、国際大会で新戦術を試せなかった影響もある。 元々、日本の女子代表の強化プランは、若手は積極的に海外遠征に出しても日本代表はあまり出て行かないという傾向がある。研究される材料を与えたくないためだが、そろそろその方針を緩めようとする機運が出てきた時期に新型コロナウイルスが世界に流行した。そのため、土性は2019年の世界選手権のあと、一度も海外選手と手合わせをしないまま、東京五輪の本番に挑むこととなった。 レスリングの国際大会は開催場所が欧州に偏っているため、日本は地理的に不利な面がある。国の新型コロナ対策の方針も異なるため同列に語ることはできないが、今春、米国女子チームは欧州遠征をしストックメンサも2大会に出場している。 だが、ここでいたずらに羨んだり、恨み言を言わないのが日本の女子レスラーたちの特徴でもある。実際、五輪すべての試合が終わって、土性はこう語った。 「負けが続いたり、ケガが増えたり、本当に色んなことがあった。ひとりじゃここまでこられなかったし、心も折れそうになったこともあったんですが、色んな方に支えられて、ここまで来られてよかった。今までの何倍も、色々成長できたなと思います」 言い訳をしない潔さと、不運も無駄ではないととらえる未来へ進む考え方。大ケガをしたトップクラスのレスラーが、どのようにそれを乗り越えていくのかは、「経験した人が伝えるのが一番よい」(小林氏)という。この5年間の経験と思いが、未来の女子レスラーにも、勝つためのノウハウとして伝えられる日が来るのを楽しみにしたい。