なぜ女子レスリングのリオ五輪金メダリスト土性沙羅はメダルに手が届かなかったのか…敗因に故障と新型コロナ禍の影響
リオ五輪後の土性は、ケガに次ぐケガの治療とリハビリの合間にレスリングに取り組まざるを得なくなっていた。2018年3月、国別対抗団体戦で左肩を亜脱臼。「これまで何度もはずれた」箇所だったこともあり、手術してきちんと治すことにした。ボルトを入れる大手術と、続くリハビリを乗り越え日本代表へ復帰、2019年の世界選手権で五輪出場枠を得た。だが、帰国後に左膝を負傷。東京五輪内定を得るため、痛み止めを打って全日本選手権に出場したが、決勝で敗れ、2020年3月のプレーオフでようやく東京五輪代表となった。 確かにケガを乗り越えて東京五輪のマットに立つことはできた。だが、ケガを真の意味で克服する難しさが、メダル獲得へのハードルを上げた。 小林氏が説明する。 「ケガを克服する、とよく言いますが、それは元通りになったという意味ではありません。ケガをした部位は以前のようには動かないと諦めて、新しいスタイルを手に入れることがケガの克服だと考えています。私も現役時代に肩の手術をしていますが、以後、そちらの半身は実際には使えないものとして、スタイルを大きく変えました。膝をケガすると、その足の太ももの筋肉も以前のように踏ん張れません。土性さんも左膝については、そんな状態だったと思います」 チェルカソワ戦の敗戦はケガだけが原因ではない。前日の1回戦で敗れたストックメンサを相手に全力を出し尽くしたことも大きく影響している。 圧倒的な強さで金メダリストとなったストックメンサは、土性よりも2歳年上、1992年生まれの28歳。リオ五輪前から国際試合には出場していたが、目の覚めるような強さを発揮しだしたのは、ここ2~3年ほどのことで、世界選手権も2019年が初優勝だった。優勝後のミックスゾーンで、米メディアのインタビュー用マイクをなぜか自分自身で握り、立て板に水で陽気に喋り続ける姿に、自然と周囲が笑顔にさせられたものだ。国際大会での優勝から遠ざかりランキングが低かった土性にはシード権がなく、前日の抽選によって、第1シードのストックメンサと一試合目で顔を合わせることが決まった。 ストックメンサとの試合に、土性はできる力をすべて注ぎ込んだ。だが、女子レスリングの可能性を広げるほどの勢いを持った彼女を止めることはできず、近い距離からのタックルとアンクルホールドの連続技を次々と決められテクニカルフォール負けに終わった。土性に対して五輪金メダリストのイメージが強かった人にはショッキングな姿だったかもしれないが、「技術も力も、いまの女子のなかで最高水準の選手を相手にして、大健闘」(小林氏)と言ってよいだろう。