三菱一号館美術館の“新章”スタート、再開館記念展は美術館の顔・ロートレックと、現代アーティストのソフィ・カル
■ 「不在」とは無縁に思えるロートレック 一方、展覧会のもうひとりの主役であるトゥールーズ=ロートレックは、「不在」とはかけ離れたアーティストに思える。ロートレックは1891年に初めて制作したポスター『ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ』が高い評価を獲得。ポスター作家として一世を風靡し、現在も世界中で抜群の人気と知名度を誇る。貴族の出身でありながら、パリの歓楽街モンマルトルで奔放な生活を送り、36歳で逝去した人生は映画にもなった。不在どころか、存在感の極めて強い画家というイメージだ。 だが、そんな人物像と真逆ともいえる「不在」をテーマにすることで、新たなロートレック像が見えてくる。ポスター作家としての人気が先行し、画家として正当な評価を受けられなかった「美術史からの不在期間の作品」。女性人気歌手イヴェット・ギルベールを画題にしながらも、その姿を描くのではなく、彼女が身に着けていた黒い長手袋で彼女のイメージを表した「人物不在の肖像作品」。 「色彩の不在」をテーマにしたコーナーも見ごたえがある。ロートレックは多色刷りのポスターで知られているが、展覧会では単色の試し刷りが数多く紹介されている。色がないことで、ロートレックの線描の上手さとあたたかさがダイレクトに伝わってくる。ロートレックはアカデミックな美術教育をきっちりと受けていたのだと改めて認識させられた。 ■ 小展示室が新たに誕生 今回のリニューアルで、三菱一号館美術館1階には小展示室が新設された。学芸員の学術的な興味に基づく展覧会を開催し、その学芸員のスキルアップを図っていくという。第1回は岩瀬慧学芸員が企画した「坂本繁二郎とフランス」展。坂本繁二郎の作品に加え、コローやミレー、セザンヌの油彩画も紹介。坂本がフランス留学で得たものについて考察している。 不在期間を終えて帰ってきた三菱一号館美術館。新しい分野を意欲的に取り上げ、アートファンを大いに楽しませてほしい。 「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」 会期:開催中~2025年1月26日(日) 会場:三菱一号館美術館 開館時間:10:00~18:00(金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は~20:00) ※入館は閉館の30分前まで 休館日:月曜日、12月31日、1月1日(ただし12月30日、1月13日、1月20日は開館) お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
川岸 徹