三菱一号館美術館の“新章”スタート、再開館記念展は美術館の顔・ロートレックと、現代アーティストのソフィ・カル
■ 「不在」を考察し続けるソフィ・カル 「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」はタイトル通り、2人のアーティストをクローズアップして紹介する内容。1人は19世紀末のパリで活躍した画家・版画家のアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。もう1人は現代フランスを代表するアーティストのソフィ・カル。時代が異なり、なんの接点もないように見える2人のアーティストをどのように1つの展覧会にまとめるのか、興味深い。 展覧会は3階フロアがトゥールーズ=ロートレック、2階フロアがソフィ・カルの展示。2つのフロアは「不在」というキーワードで結ばれている。 ソフィ・カルは長年にわたり、「喪失」や「不在」について考察を巡らせているアーティスト。本展で紹介されている『あなたには何が見えますか』シリーズは、1990年にボストンのイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館で発生したレンブラント、フェルメール、マネらの絵画盗難事件から着想を得たもの。盗まれた絵画のうち数点は額縁が残されており、美術館では1994年に空になった額縁だけを元の場所に展示。ソフィ・カルはその不思議な状況を作品とし、美術館の学芸員や警備員、来館者に「額縁の中に何が見えるか」と問いかけている。 『海を見る』は海に近い街トルコ・イスタンブールに暮らしながら、貧困により一度も海を見たことがない若者から老人までの14人の、「生まれて初めて海を見る瞬間」をとらえた映像作品。海を見つめる後ろ姿と、振り返って様々な表情を見せる人々から「見ることとは何か」を考えさせられる。 額装された写真の上に布が掛けられ、来場者は布をめくって写真を見るというカルの代表的シリーズ『なぜなら』も展示。布には「Parce que(なぜなら)」で始まるテキストが書かれており、この写真が撮られた理由や、なぜこの瞬間や場所が選ばれたのかを知ることができる。