【40代・50代から知っておきたい「嚥下機能」】「飲み込む」って、実はすごいメカニズム!
ちょっとしたはずみで、食べた物や飲んだ物、唾液が気管に入りかけてむせたことはないだろうか?「気管に入りかけただけ」であれば、誤嚥したことにはならない。瞬間的に激しくむせるのは、気管に侵入しかけたものを押し戻して、気管と肺を守ろうとする防衛反応だ。 「誤嚥しかけてむせたとき、むせるのを抑えようとして水を飲む人がいますが、これは絶対にNG。サラサラとした液体というのは誤嚥しやすく、さらなる誤嚥を起こす危険があるからです。むしろ大きく咳をして、喉の奥につかえたものを吐き出すことが大事。上半身を前に倒して前屈位の姿勢で咳き込むと、吐き出しやすくなります」 嚥下は反射運動なので、無意識に行われている。でも、無意識だからこそ、エラーが起こることがあるのだ。「最近、むせやすい」という人は、飲み込み筋が老化して、嚥下機能が衰えているサイン。喉の連携プレーがうまくいっていないために、むせやすくなっているのだ。慢性的にむせやすい状態が続くと、この先、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがある。嚥下機能のエラーを予防するためにも、まずは「これから飲み込むぞ」と、意識して飲み込むようにしてみよう。
喉(喉頭)には「飲み込む」「呼吸する」「声を出す」という3つの機能が!
喉は私たちが生きていくうえで欠かせない3つの機能を担う場所。食べ物を口から取り込んでエネルギーを摂取する「嚥下」のほかに、酸素を取り入れて二酸化炭素を吐き出す「呼吸」、人とのコミュニケーションに必要な「発声」という3つの役割を果たしている。実は、呼吸と発声の機能が衰えると飲み込む力が影響を受け、衰えてしまうことがわかっている。 「もしも誤嚥しかけたとしても、大きく咳き込むことで気管の入口に引っかかったものを吐き出すことが可能です。ただし、このとき、大きく息を吐く力があるかどうか、肺活量があるかどうかがカギとなります。“誤嚥があるグループ”と、“誤嚥しないグループ”を比べたときに、“誤嚥があるグループ”のほうが呼吸機能が弱いという研究結果もあるからです」 また、気管の入口にある喉頭には声帯があり、声帯を閉じたり開いたりすることで声を出しているのだが、誤嚥しやすくなっている人の場合、声が小さくなったり、かすれやすくなるケースが見られる。実は声を出すときには声帯が震えて、高音を出すときほど、飲み込み筋が効果的に刺激される。そのため、将来的な誤嚥を予防するには、呼吸機能と発声機能を衰えさせないことも重要。飲み込む力とともに、呼吸、発声の3つの機能を維持して、喉の若さを保とう。
【教えてくれたのは】 西山耕一郎さん 西山耳鼻咽喉科医院院長。東海大学医学部客員教授、藤田医科大学客員教授。耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医、日本嚥下医学会嚥下相談医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、医学博士。現在は複数の施設で嚥下外来と手術を行うかたわら、教鞭をとりながら、学会発表や医師向けセミナーを行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)など多数。 イラスト/カツヤマケイコ 取材・原文/大石久恵