「いまの漫画は下手」 『DRAGON BALL』元編集者が語る漫画の描き方とビジネス #昭和98年
コミック市場は過去最大の6770億円、アニメ産業市場も2兆7422億円と過去最大。どちらも好調を続けている。そんな中、『DRAGON BALL』や『Dr.スランプ』などを送り出した漫画やアニメビジネスの立役者で、元「週刊少年ジャンプ」の名物編集者、鳥嶋和彦氏が漫画の作り方についての本を出した。漫画の描き方からそのビジネスのあり方まで、懇切丁寧に記された同書は、漫画の理屈が誰にでも理解できる内容になっている。鳥嶋氏は拡大する漫画ビジネスについてどう考えているのか、本人に尋ねた。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
片っ端から読んで気づいた「面白い漫画」とは何か
196ページ、大判(B5判)サイズの本を開くと、丁寧に解説された「漫画の作り方」が次々と展開される。キャラクターの魅力、吹き出しの重要性、コマ割りのあり方。漫画の描き方の本は過去にも存在するが、本書では「なぜ必要なのか」という理屈が分かりやすく示されている。 ──いまこの漫画術を書こうとしたのはなぜですか。 「いまの漫画がほとんど下手だから。いまデジタルも含め、いろんな漫画がありますが、見せ方がみんな下手です。漫画は誰が読んでも分かるものじゃないとだめ。でも、そうなっていないんです。このままじゃまずいなって。人気の漫画も、見せ方が下手で損をしています」 ──何がどう下手なんですか。 「たとえば、コマ割り、アングル。これがうまくないと、パッと見たときに、どこをどう見ていいか、目が迷うわけです。この『DRAGON BALL』の見開きを見てください。最初のロングカットで、いつ、どこで、誰が、何をやっているかが分かる。次の顔のアップでキャラクターの表情があり、ミドルカットでアクションがある。見開きの中で、ちゃんと考えて構成されているから、誰が見ても分かる。こういうセオリーがいまの漫画はできていないんです」
鳥嶋和彦さんは漫画の世界では広く知られる編集者だ。『Dr.スランプ』(1980年)の中で、悪役キャラクター「Dr.マシリト」として描かれたこともある。1976年に集英社に入社。創刊8年目の「週刊少年ジャンプ」編集部に配属されたが、漫画をまったく知らなかった。そこでグループ会社・小学館の資料室に入り浸り、「片っ端から日本で出ている漫画を全部」読んでいった。速いスピードで大量に漫画を読む中で分かったことがある。手が止まらず、速く読める漫画こそが面白い漫画であると。一番面白かったのは、ちばてつや氏による剣道の漫画『おれは鉄兵』だったという。 ──どこが『鉄兵』のよさだったのですか。 「たとえば、剣道の場面。引いたカットで対峙している2人がいる。どの位置に、どれだけの距離かが分かるようにちばさんは描く。すると、“間合い”が読める。剣道は間合いをどう測り、どう動くと打たれるかが本質。ちばさんはそれを描いていた。読者は過不足なく理解できる。なぜこのコマなのか、このアングルなのか、なぜこのセリフなのか。そういう文法がしっかりあるんです。資料室で読んでいくと、そういう基本ができている漫画はやはり面白いんです。それが分かったので、自分が担当する新人漫画家との打ち合わせで、それを伝え、そういうふうに作ってもらうようにしました」