掛布雅之が明かす、4番打者の「心構え」と「宿命」…プロ野球選手だからこそ「わがままな野球」をするワケ
緊張とプレッシャーの違い、一貫した心理状態を保つ工夫、日常のルーティンの重要性、そして、ファンのためのわがままな野球の必要性……。「ミスタータイガース」と呼ばれた伝説の打者で、著書『掛布の打撃論』を上梓した掛布雅之氏が、ビジネスパーソンも参考になる、現役時代に大切にしていた「4番打者としての心構え」を語る。 【一覧】プロ野球「最も愛された監督ランキング30」最下位は、まさかの…
どうすれば常に同じ心理状態で臨めるか
私はすごく緊張して打席に入るほうでした。むしろ、緊張して当たり前だと思っていました。ウェーティングサークルで覚悟を決めて、打席に入るときには落ち着いていましたが、緊張しない人はいないでしょう。これは草野球からプロの試合まで、同じ心境だと思います。 プロ野球では何万人もの目で見られて、その中で試合をやるわけです。緊張感のない試合ではいいプレーは生まれません。緊張とプレッシャーは違います。緊張はグラウンドだけのものですが、プレッシャーは常に感じていました。 グラウンドでは緊張した中で、私はどうすれば常に同じ心理状態で臨めるかを考えていました。打席に入るときはもちろん、守備のときでも同じです。ノーヒットノーランがかかった終盤や、サヨナラ負けのピンチなど、どんな名手でも「飛んできたら嫌だな」と思っているものです。 ですから私は逆転の発想で、普段から「飛んできたら嫌だな」と思うようにしたのです。そのほうが、どんな場面になってもいつも通りの心理状態でプレーできると考えたからです。「飛んでこい」なんて思ったのは、冗談抜きで優勝を決める最後の打者ぐらいなものでした。
「マスコミの前から逃げない」と決めた
日常のルーティンも同じにしました。球場に行く道も変えませんでした。調子が悪いからと変えだしたらキリがありません。何をやるにしても左から。靴下も左足から履きます。窮屈な日常生活に思われるかもしれませんが、決めておいたほうが楽なのです。 心構えとして常に変えなかったのは、マスコミの前から逃げないということです。これは4番打者の宿命だと思っていました。格好つけるわけではありませんが、自分が負けを背負うことによって、ほかの選手が楽になると考えていたのです。それも4番の仕事なんだと思っていました。 「掛布、3三振」でスポーツ紙の一面になったときはすごく悔しく感じましたが、打てなくて見出しになるということは、どこかで「認められているのだな」という思いもありました。 それまでは打てばほめられていたのが、打たないとたたかれるようになったのです。その変化が、心のどこかでうれしかったのです。 それからは、常に日常生活の中でもプレッシャーを感じながら野球をやっていました。だからこそ、グラウンドの中では、打席の中のルーティンなどを守り、心の波を小さくすることを心掛けたのです。