「語彙力がない」ことで知らないうちに人を怒らせ、信頼を失うことも…【明日の自信につながる「大人の語彙学」#3】
現代人は正しい言葉を身に付けられる機会が減っており、逆に誤用を目にする機会は増えています。新しく生まれたツールを使いこなすにも語彙力が求められる一方、実際に言葉を教えてくれる人は少ない。つまり、自分で意識的に学習に取り組まないと、語彙力が低くなりがちな状況にあるわけです。 【画像1枚】人気国語講師・吉田裕子さんの新刊『明日の自信になる教養4 池上 彰 責任編集 思いが伝わる語彙学』の書影 では、語彙力がないと実際にどのような不利益が生じるのでしょうか? 『kufura』でも「オトナ女子の言葉選び」などの語彙シリーズを連載中の人気国語講師・吉田裕子さんの新刊『明日の自信になる教養4 池上 彰 責任編集 思いが伝わる語彙学』(KADOKAWA)から、【「語彙力がない」と生じる不利益】についてお届けします。
「語彙力がない」と生じる3つの不利益
【1】得られる情報が偏る まずは1つ目の「得られる情報が偏る」について。そもそも言葉を知らないと本を読みこなせませんので、それによって情報源に偏りが生まれます。 この「偏り」には2つの意味があり、その1つが深い情報にたどりつけないことです。語彙が貧しいと硬質な専門書は読めませんから、何か知りたいことがあっても、表面的な情報しか取り入れることができません。 もう1つは情報の取り入れ方が受け身になりやすいことです。複雑な内容の本が読めなければ、情報源はテレビや動画に偏りますが、映像を見るという行為は受け身になりがちです。 本の場合は書店やネット書店でたくさんの中から読みたいものを選ぶため、自分で主体的に選びとることになります。読むという行為は能動的なので、映像メディアに比べれば批判的に検討する目も持ちやすくなっています。 【2】年齢相応の信頼感が生まれにくい 次に、2つ目の「年齢相応の信頼感が生まれにくい」ことについて。不祥事で企業のトップや著名人が会見を開くときのことを思い出してみてください。このような場合に年齢相応の言葉で語ることができないと、仕事の能力だけでなく人柄まで疑われて、信頼を失います。 これは一般人でも同じです。特に「謝罪」や「拒否」のような、いわゆる深刻で気まずい状況で起こります。「いや、本当、マジでよくなかったと思ってるんですよね」と謝られたら、どのように感じるでしょうか? 語彙力の低さは、このようなときに「誠意がない」「反省していない」という印象につながりやすいのです。 信頼感という観点では、業界用語がわからない、業界用語を誤って覚えているというのは、自分の評価に致命傷を与える場合があります。 自分のなすべき仕事に関連する用語を知らないということは、単純に「漢字の読み方間違えちゃった、てへ」で済まされることではなく、その仕事に対する熱意や専門性を疑われる材料になってしまうのです。 【3】悪気なく相手を怒らせてしまう 3つ目の「悪気なく相手を怒らせてしまう」ことについても考えてみましょう。 皆さんは、目上の人に面と向かって「〇〇さんって要領いいですよね」と言いますか? 「要領」を辞書で調べると「物事をうまく処理する方法」といった意味が出てきます。一見誉めているようですが、この言葉は実際にはそれだけではなく、「表面的にうまく乗り切っている」という印象も与えてしまうのです。 単語集のようなもので言葉とその意味を見るだけで、実際の用例に触れずに勉強していると、言葉の使い方を誤ってしまうことがあります。言葉を表面的にしか理解できていないため、誉めているつもりでマイナスのニュアンスが伴う言葉を使い、知らないうちに人を不快にさせてしまう事例は、実は割とよくあることなのです。 このように、場面に応じて適切な言葉が使えなければ、自分ではまったく悪気がなかったとしても、人を怒らせたり、信頼を失ったりしてしまうことがあるのです。