わいせつか芸術か。アメリカで急増するアート検閲から表現の自由を擁護するNPOの活動を追う
このように、昨今の検閲はますます二極化する政治的立場の両極で起こっているが、NCACはどちらの側にもつかない方針だ。ミンチェワはこう力説する。 「私たちは、作家の信条や作品の美的価値に関係なく、クリエイティブな仕事をしている人々を支援しています。個々のメンバーが作品をどう感じるかではなく、組織としての原則に基づいた活動です」 2017年にNCACは、ミネアポリスのウォーカー・アート・センター彫刻公園に展示されていた白人作家サム・デュラントの《The Scaffold(絞首台)》が、抗議を受けてすぐに撤去されたことを批判した。1862年にミネソタ州で38人のダコタ族の男性を処刑するために使われた木製の絞首台が実物大で再現されたこの作品は、重刑が課せられるのは白人よりも有色人種の方が圧倒的に多かった不公平な歴史に言及したもので、同美術館に新設された彫刻庭園に恒久的に展示されるはずだった。 だが、作品への抗議活動が始まって数日後、デュラントはダコタ族の長老や美術館・市職員と話し合い、作品を解体してその知的所有権をダコタ族に譲渡することに同意した。これを受けてNCACは公式声明を発表。アーティストと美術館による「性急な決定」のために、幅広い人々の有意義な意見を検討し、他の解決策を探る可能性が閉ざされてしまったのは遺憾だとしている。 つまり、テキサスでは公的機関がイバラの作品を排除したが、この場合はその逆で、アーティスト自身が作品の撤去を選択した。それでもNCACは、これによって開かれた議論の機会が失われたことを問題視。声明にはこう書かれている。 「アーティストやアート施設は、常に社会的・政治的言説の一翼を担ってきました。近年、過去のトラウマについて表現する権利を持つのは誰なのかということ、また文化的盗用(*2)や白人の特権の意味をめぐって活発な議論が交わされています。もし問題が生じても、作品を撤去する以外の方法を取れるかもしれません。文化施設とアーティストは、このような批判や論争に対応するための創造的な方法を早急に見つける必要があります」