「点滴怖いけど頑張れる」闘病の子に寄り添うファシリティドッグ 小児病棟に広がる笑顔 #病とともに
「本来、子どもたちの『日常』というのは、他者と主体的に関わっていくものです。ですが、病院は『非日常』なんです。子どもたちからすると、マサのように特定の目的があるわけではない存在は『日常』とつながれる貴重な機会になっていると思います」 こうした日常をつくる重要性は以前よりも増している。それは入院患者の「生活の質」が問われてきているからだという。 「これまでの医療は治すことが全てでしたが、小児がんは40年前の5年生存率が60%くらいだったのと比べ、今では90%になっている。そうなると、治った後にその子たちがどう生活していくのか、ということが課題になる。ただ、医療従事者は治すことに全力を注いでいるので、入院環境の支援まで手が回らない。ですからパラメディカルの人たちに入ってきてもらう必要性が増しているのです」
認定NPO法人シャイン・オン・キッズは日本でファシリティドッグを導入するために犬のトレーニングやフォローアップを行っている団体だ。事務局長を務めるニーリー美穂さんも、アメリカに比べて日本の小児病棟における環境の遅れを感じているという。 「私が視察したアメリカの病院では『チャイルド・ライフ・スペシャリスト』という職業の人が150床に30人くらいいて、長期入院の子どもの心のケアをしていました。日本では、まだまだ普及しているとは言えません。病院をいかに日常にするか、楽しいところにするか、といった子どもの心のケアへの理解がもっと進んでほしいと考えています」
長期入院多い日本 活動の継続への課題も
病院での子どもたちの心のケアという点において、ファシリティドッグが果たしている役割は大きい。シャイン・オン・キッズなどがファシリティドッグを導入した病院の医療スタッフに行ったアンケートによると、「患者の協力の得られやすさ」で73%、「作業の円滑化」では60%の人が効果を実感していると回答した。 しかし、こうした活動を広げていくには大きな課題がある。それは費用の問題だとニーリーさんが指摘する。 「導入するとなると、犬に関する直接経費だけでなく、病院の中に犬の控室や犬のための動線を設ける必要もあります。するとそのコストも病院で負担してもらうことになる。また、関係者への理解も求める必要もあり、そこまでして導入する価値があるのかという議論にもなるでしょう」 ファシリティドッグが医療現場で活動できるようになるまでには2年程度かかる。しっかりとしたトレーニングを重ね、医療安全に配慮しながら慎重に導入していくことが求められるからである。犬に関する費用のみならず、ハンドラーの給与など直接経費だけでも年間1000万円程度のランニングコストが必要となる。