「点滴怖いけど頑張れる」闘病の子に寄り添うファシリティドッグ 小児病棟に広がる笑顔 #病とともに
医療スタッフとのMTGにも「同席」
マサが病棟の子どもたちの部屋を権守さんと回る前、処置室には看護師や保育士が集まっていた。「カンファレンス」と呼ばれる関係者による打ち合わせで、担当する患者リストを見ながら、マサとどういう関わり方をしていくべきかを定期的に話し合っている。重い病気の患者が多く入院しているため、重苦しい雰囲気かと思えば、和気あいあいと明るい雰囲気だ。それもそのはず、マサもその場に同席しているからだ。
「新しく依頼しようと思っている子がいる」「マサに興味を持って追いかけてきた」など、まだマサが訪問していない子どもについても、興味の度合いや個別の事情などを共有していく。 看護師の釼持瞳さんは、マサがいることで治療自体が非常にやりやすくなっていると実感する。 「点滴や採血などの痛みのある処置をするときにも、マサがいてくれると子どもたちは事前に気持ちを落ち着かせてから来てくれる。嫌々来るのではなく、自分で主体的に頑張るという力をマサが引き出してくれています。『点滴怖いけど、でも頑張れる』という気持ちにさせてくれるので、処置もスムーズにやりやすい」
実際に点滴も子どもがマサを触りながらであれば、すんなりできるケースが多いという。
子どもたちの心をそっと開くマサ
カンファレンスが終わり、マサが病室に向かうと、ぎんじくん(8歳)は嬉しそうにベッドから起き上がった。そして、マサのリードを握ると、病棟奥のスペースへ一緒に歩き出した。ここからはしばしマサとの遊びの時間。輪投げをして、入ったらマサがその輪っかをぎんじくんのところへ持ってくる。うまくできたときにはマサにご褒美でおやつをあげる。そのときに「ステイ」と呼びかけると、マサは座ってじっと待つ。「リリース」と呼びかけると、おやつをパクッと食べた。こうして子どもが主導して何かをすることも、この病院内では貴重な機会となる。
保育士の平真由美さんは、マサが子どもたちの心をそっと開いてくれていると語る。 「マサを通してこれまで私たちが知らなかった子どもの側面を権守さんから聞くことがあります。その子の関心のあることがわかると、『では今度はこういうものを保育の現場でも取り入れてみよう』と参考になります。また、『一緒に歩こう』と言っても歩かない子が『マサが来るから見に行こう』と言うと歩いてくれる、なんてこともあります」 ただ、マサが働ける時間には限りがある。動物福祉の国際的な指針で1時間の活動ごとに1時間の休憩をとるよう示されている。これを踏まえて活動は1日3時間程度を目安にしている。勤務は平日の週5回だ。それだけに、誰に会いにいくかを判断する必要が出てくる。 「最低でも週に1回は行こうと思っていますが、お子さんの状態、検査の状況なども踏まえて決めていきます。病状によっては毎日顔を出したりします。また、厳格に3時間ぴったり働くと決めているわけではなく、『ほとんど寝ていてリラックスしていたな』というときは、少し長くしたり、『疲れたかな』というサインがあれば早めに引き揚げたりしています」(権守さん) そうしたファシリティドッグとの交流を通じて、病を乗り越えた子もいる。