『ふつうの軽音部』ELLEGARDENは作品の象徴として選曲。原作者が楽曲セレクトやキャラクター造形を語る【クワハリ先生インタビュー】
次にくるマンガ大賞2024でWebマンガ部門1位を獲得した『ふつうの軽音部』(クワハリ:原作、出内テツオ:漫画/集英社)。その面白さはどこから来るものなのか? この作品はどのようにして生まれたのか? その根源を探るべく、原作を担当しているクワハリ氏へインタビューを敢行。「ジャンプルーキー!」連載時代からこれから先のことまでお話を伺った。 【漫画】『ふつうの軽音部』を読む
■エッセイ漫画路線から熱血へ
――ダ・ヴィンチWebの取材ということで、本についての話から伺わせてください。先日、Xに村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』(新潮社)を読まれたと投稿されていたり、『ふつうの軽音部』のコミックスに描き下ろされたキャラクターの自己紹介で好きな小説や作家をあげているキャラが少なからずいたり、先生は読書家だという印象を勝手に持っています。 クワハリ氏(以下、クワハリ):いや、そんなに数を読んでいるわけじゃないですよ(苦笑)。特に最近はあまり読めていません。でも、たしかに小説に限らず、本を読みはしますね。 ――キャラの自己紹介に書かれた作品の中に、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』(文藝春秋)が入っていたのが印象に残っています。小説だと、純文学を手に取ることが多いんですか? クワハリ:全然そんなことないというか、特定のジャンルをめちゃくちゃ読むことはないんです。『コンビニ人間』は、タイトルがキャッチーで面白そうだなと思って手に取っただけですね。でも、特殊な考え方をしている人や、そういう人を描いた話が好きで、『コンビニ人間』の主人公もかなり特殊な考え方の人だと思うんです。だから結構読んでいて楽しかったというか、好きな作品ではありますね。 ――たとえば他に、ぱっと思いつく、直近で読まれた面白い本はなんでしょうか? クワハリ:『母という呪縛 娘という牢獄』(齊藤彩/講談社)という、滋賀県で、いわゆる“毒親”のお母さんを娘が殺してしまった事件を書いたノンフィクションの本があって、それですかね。 ――意外なところが。 クワハリ:そうですよね(笑)。本当に、ぱっと思いついたのがたまたまそれで。 ――では、改めてここから、『ふつうの軽音部』のお話に入らせていただければと思います。まずは作品が生まれたきっかけを伺わせてください。 クワハリ:コロナ禍ぐらいのときに何か新しいことを始めようと思って、今まで全然やってなかったんですけども、iPadを買って、イラストの練習を始めまして。で、しばらく絵の練習、模写をしていたんですが、イラストってやっぱり難しくて、なかなかうまくならなかった。そこで漫画を描き始めたんです。漫画の方が、まだ絵が雑でも許されるような気がして。 初めて描いたのは自分の高校時代をもとにしたエッセイ漫画で、それはTwitter(現X)で発表していたんですけど、それを描き終わった後、今度はフィクションの物語を描きたくなった。それで始めたのが(「ジャンプルーキー!」版の)『ふつうの軽音部』だった……という流れです。 ――ジャンプルーキー!編集部ブログのインタビューでは「題材としては、自分自身が経験していて詳細に描けるものとして『軽音楽部』を選び、『大人数の軽音部を扱った作品はなく、差別化できるのでは』と考え、今の設定にたどりつきました」と答えていました。そうした基本コンセプトみたいなものを思いついてから、具体的な漫画の形に落とし込んでいく過程では、どんなことを考えているのでしょうか? クワハリ:特に「ここを目指そう」とか、そういうこともなく、本当に行き当たりばったりで描き始めた作品ですね。最初の方は特にそうです。しばらく描いていくうちに、キャラクターが増えてきたところで、さすがに「ちょっと話を考えよう」と思って、先の展開だとかも多少は考えるようになった感じですね。 ――じゃあ、もう本当に、「高校入学と同時に軽音部に入るぞ」と決意している女の子が楽器屋に行くところから、順にストーリーを考えていかれた? クワハリ:そうです。だから1話を描いている段階では、主人公の鳩野がどういうバンドを組むかとか、バンドはいつ初めてのライブをするかとか、そういうこともあんまり決まってなくて、本当にとりあえず描き始めた感じでしたね。