ハリルホジッチ監督がポリシーを覆した理由
日本が所属するグループBはサウジアラビア代表と、グループ最強のオーストラリアが連勝スタートを切った。連敗スタートながら、第2戦で残り10分までサウジアラビアをリードする互角の戦いを演じたイラクも決して侮れない。 もし10月シリーズでつまずけば、現時点で3位の日本にとって、W杯切符を自動的に獲得できる2位以内に入る道は一気に険しさを増す。場合によっては11月15日のサウジアラビア戦(埼玉スタジアム)へ向けて体制の刷新、つまり指揮官の更迭で流れを変える荒療治も必要になってくる。 記者会見では「UAE戦と同じ結果になったとき、監督はけじめをつけてくれるのか」という質問も飛んだ。表情をこわばらせながら、指揮官はこんな言葉を返した。 「皆さんが私の他に別の監督を連れてきたいのならば別だが、まだまだやるべきことがある」 自身を取り巻く空気の微妙な変化に気がついているからこそ、些細なリスクでも徹底的に排除して、まずはイラク戦の勝利を目指す。ポリシーに反してまで欧州の常連組にこだわる理由も、おそらくここにあると見ていい。ただ、別の意味でリスクは生じる。 試合勘の欠如は、パフォーマンスに決して小さくない影を落とす。タイ戦でゴール前に詰めた本田がクロスを空振りした場面は、その最たる例といっていい。選手たちは日本までの長距離移動と時差ぼけに苦しめられ、中にはイラク戦の2日前に帰国する選手もいるが、指揮官は欧州組の経験値を選択した。 「本田に関しても香川に関しても岡崎に関しても、所属クラブで先発できないからサヨナラとはならない。7年、8年と日本に寄与してくれた選手を簡単には排除できないし、メンタル的にチームが壊れてしまう。これは『君たちを信頼している』というメッセージであり、私はピッチで返答を待つ」 世代交代とチームの成長を促す弱肉強食の論理を排除してまで、長く培われてきたコンビネーションに活路を託して臨む10月シリーズ。「結果だけが真実だ。負けたときは私を批判してほしい」と再び語気を強めたハリルホジッチ監督のもと、日本代表は10月2日から埼玉県内で直前合宿に入る。 (文責・藤江直人/スポーツライター)