2024年の主な文学賞:長期の休みにお薦めの作品
南海トラフの虚構を暴く
その年の優れたノンフィクション作品に授与される新潮ドキュメント賞には、『南海トラフ地震の真実』(小沢慧一=おざわけいいち=、東京新聞)が選ばれた。今夏に警報が発せられた南海トラフ地震について、その確率の虚構を暴く労作である。 本作は、個人的には最も推薦したいノンフィクションだ。2024年8月8日、気象庁は南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表。地震発生の可能性が相対的に高まっているとして、1週間は警戒するよう呼びかけたことは記憶に生々しく残っているだろう。 長年にわたって政府は、南海トラフ(静岡県から九州沖)でマグニチュード8~9級の巨大地震が「30年以内に70~80%の確率」で発生する可能性があると警告し続けてきた。本作は、その確率が全く根拠のない虚構の数字であることを、地震学者や関連する政府委員会の議事録の入手など、丹念な取材によって明らかにした。 確率の根拠は、江戸時代の不確かな測量による数字だけに基づいている。多くの地震学者から「科学的に疑義がある」と指摘されるも、確率を下げると「防災予算の獲得に影響がある」との政府の思惑から、批判の声は封じられてしまうのだ。 著者は1985年生まれ。2011年中日新聞(東京新聞)入社。東京社会部司法担当を経て同部科学班在籍。20年に連載した「南海トラフ80%の内幕」で科学ジャーナリスト賞を受賞。「第71回菊池寛賞」も受賞している。 最後に出版取次ぎ大手の日本出版販売による今年の年間ベストセラー(単行本フィクション部門)を紹介しておきたい。1位『変な家2 ~11の間取り図~』(雨穴著・飛鳥新社)、2位『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈著・新潮社、本屋大賞受賞作)、3位『変な家』(雨穴著・飛鳥新社、昨年も1位)、4位『変な絵』(雨穴著・双葉社、昨年も2位)、5位『成瀬は信じた道をいく』(宮島未奈著・新潮社、成瀬の続編)、6位『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著・講談社)だった。