NYヤンキースの環境アドバイザーが語った、スポーツが持つ「巻き込み力」【Sport for Good】
北米メジャーチームで初めて「気候行動枠組み」に参画
「地球温暖化は専門家の予測を上回る勢いで進行している」と、ハーシュコウィッツ氏は警鐘を鳴らす。 「巨大な台風や干ばつ、山火事などの自然災害で家やコミュニティを追われた環境難民を、我々は何度も目にしてきました。現状を放置すれば気温がさらに上昇し、今以上に事態が悪化することも懸念されます。(紛争や気候変動、自然災害などによって)2050年までに10億人以上が避難生活を強いられるという試算もあるほどです(※2)」 気候変動は、スポーツ界にも多大な影響をもたらすものだ。実際に、猛暑や豪雨などの自然災害が原因でスポーツ大会が中止になったケースも少なくない。 世界スポーツ界で「環境科学アドバイザー」に就任したのはハーシュコウィッツ氏が初だが、就任直後に取り組んだのは、国連が定めた「スポーツを通じた気候行動枠組み(以下、「スポーツ気候行動枠組み」)」への署名だった。「スポーツ気候行動枠組み」とは、国連とIOCが主導するイニシアティブで、世界中のスポーツ団体が力を結集させて気候変動問題に取り組むための枠組みのこと。具体的には、CO2排出量の計測削減とファンへの啓発活動が責務とされている。ヤンキースは2019年に北米のメジャースポーツチームとしては初めて署名し、ファンやコミュニティを牽引している。
温室効果ガスの影響を測定し、より環境負荷の少ない方法に
事業による気候変動への影響を抑えるために、ヤンキースでもさまざまな取り組みを行っている。まずハーシュコウィッツ氏から語られたのは、ホームゲーム開催時にスタジアムで使用するエネルギーや電力に関する取り組みだった。 「ヤンキースでは現在、再生可能エネルギーに切り替えているところです。たとえば、スタジアム内で使用する車両も、化石燃料で動く従来のタイプから太陽光や風力によって充電されるバッテリー駆動のタイプに変更しました。また、電力会社から購入する電力も、再生可能エネルギー源からの電力を優先して購入するようにしています。最終的には、2030年までにネットゼロを達成することが目標です」 また、再生可能エネルギーへの変更に加えて、温室効果ガス排出のネットゼロを達成するためには廃棄物の適切な管理も重要だという。食品廃棄物をごみとして焼却してしまえば、温室効果ガスが発生するからだ。しかし、食品廃棄物を堆肥に変えてごみを減らせば、温室効果ガスの生成を抑えることができる。そこで、ヤンキースでは食品包装をより堆肥化しやすいタイプに変更し、コンポストしているという。さらに食品にとどまらず、衣類やグッズなど、ヤンキースが販売しているすべての商品にかかる温室効果ガスの影響を測定し、より環境負担の少ない方法を模索しているそうだ。 ハーシュコウィッツ氏は、ヤンキースタジアムの立地も温室効果ガスの削減に一役買っていると話す。交通の便が良好なニューヨーク市にあるため、スタジアムに訪れるファンも乗用車ではなく、より環境負荷の少ない公共交通機関を利用する傾向にあるからだ。 チームメンバーの国内外の移動にかかる排出など、現状の社会インフラでは温室効果ガスの排出をどうしても避けられない場面が存在するが、MLBのみならず、NBA、NHL、MLSや米国テニス協会など、米国の主要スポーツリーグ・団体やクラブのサスティナビリティプログラムの構築推進に関わってきたハーシュコウィッツ氏が最後に重要事項として提示したのは、とにかく計測が大事だということだった。「計測すれば、必ず改善方法がわかる。まだなにも開始していないなら、まずとにかく計測することから始めるべきだ」