1回TKO勝利した武居を囲む大橋会長（右）と八重樫トレーナー（左）。強力なサポート体制だ(写真・山口裕朗）

　言われたことをすぐに実践できるクレバーさと、頭で思い描いたものを肉体で再現できる神経伝達能力が武居にはあるのだろう。 　この試合のテーマは「K－1時代のいいものを残し悪いクセを修正する」だった。今回、同ジムのスーパースター、井上尚弥とスパーリングをする機会はなかったが、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾（志成）らと拳を交えてきた。 　キックの悪いクセの象徴を「どんなパンチでも100％で打ってしまっていた」と語り「ボクシングの長いラウンドを考えて強弱がつけることを覚えてきた」と武居は手応えをつかんでいた。 　サウスポースタイルの武居は右のジャブから慎重にスタートを切った。 「ジャブから崩す。様子を見ることも大切」との八重樫トレーナーの教えである。これは「弱」。そして強弱の「強」でスピードのあるワンツーを打ち込んだが、そこに5戦5KOの強打者、竹田が“罠”を張っていた。武居の左ストレートを空振りさせ、強烈なカウンターの左フックを炸裂させたのである。武居はパンチの芯こそ外したが、リングサイドの大橋会長は、「2、3回打ち終わりに左フックのカウンターを狙われて危ない場面もあった。ドキドキした」という。 　だが、武居の持つポテンシャルと八重樫トレーナーとのコンビで磨いた急成長力が、その不安を払拭した。 　さらに「強弱」をつけた右のジャブを増やし、リスクを回避した上で左のボディから右フックのコンビネーションで、そのカウンターの“罠”を潰したのである。 「事前に相手の映像を見ていた。下がりながらも詰めながらもボクシングのできる選手。ちょっと慎重になった。（左フックのカウンターを）合わされ強いと感じた。でも、なんとなく雰囲気で行けるのかなと試合中に感じた」 　“モンスター”井上尚弥ら一流ボクサーが持つ察知力が武居にも備わっている。 「少しずつボクサーっぽくなれているかな。勝てたことが自信になった。ここから次に生かせると思う」 　武居の武器は、そのリーチの長さとパンチ力、ハングリーな生い立ちからくるメンタルの強さだろう。その実力は本物と見ていい。 　八重樫トレーナーも「K－1時代のクセはある程度修正できてきた。ポテンシャルは高いものがある、そこを潰さないようにボクシング仕様に切り替える作業をしている。彼は大舞台の方が強い。そういう姿を見てみたいという興味はある」と評価した。