新世代クリエイターと組み、 クリエイタービジネス 事業を推進。大丸松坂屋百貨店・岡崎路易氏に聞く、百貨店の近未来
2020年に始まった新型コロナウイルスの蔓延が、ありとあらゆる業界に影響を与えたことは誰もが周知の事実だろう。無論、百貨店業界も大きなダメージを受けていた。 新世代クリエイターと組み、 クリエイタービジネス 事業を推進。大丸松坂屋百貨店・岡崎路易氏に聞く、百貨店の近未来 そうしたなか、大丸松坂屋百貨店・澤田太郎社長(当時)から「時間と場所の制約を克服しなければ百貨店の未来はない」との連絡を受け、ヤフー株式会社から大丸松坂屋百貨店に「出戻り」したのが岡崎路易氏だ。同氏は現在、DX推進部部長を務め、百貨店事業を拡大すべくデジタル環境を使って新たな市場創出を進めている。 企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていくDIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「look inside!─マーケターの思考をのぞく─」。今回は岡崎氏に、新事業として進めているインフルエンサー事業やメタバース事業について聞いた。 ◆ ◆ ◆
タッチポイントをオンライン化する
DIGIDAY編集部(以下、DD):話題をよんでいるインフルエンサー事業を始め、最近はメタバース領域に注力しているなど、百貨店でありながらいろいろな新事業を展開しているとお見受けします。 岡崎路易(以下、岡崎):はい。DX推進部では発足から3年で7つの事業をローンチしました。とくに新世代のクリエイタービジネスである「メタバース事業」と「インフルエンサー事業」は、私が主に見ている領域ですね。 岡崎 路易(るい)/大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部部長 デジタル事業開発担当。1981年生まれ。2004年に株式会社大丸(現:株式会社大丸松坂屋百貨店)入社。大丸神戸店でショップ店長などを経験し、2008年に財務部、2015年には持株会社であるJ.フロントリテイリングの経営企画部M&A担当へ異動。2018年にはヤフー株式会社に転職し財務企画部を経験したのち、2020年に再び大丸松坂屋百貨店に入社した。プライベートでは、4月に行われた「ストリートファイター6」の会社対抗eスポーツ大会で優勝。大会前はメタバースの中にいる師匠に付いて夜な夜な猛修業した模様。一方、鎌倉の自宅で家庭菜園に勤しむ側面も。 DD:直近はメタバース事業の動きが大きいようなイメージですが、現状はいかがですか? 岡崎:ありがたいことに活況で、2023年からメタバース用のオリジナル3Dアバターを12体販売しています。3月に追加リリースした2体はアーティストAdoさんのイメージディレクターであるORIHARA氏をデザイナーに起用し、VRChat*¹内で試着会も行い大反響をいただきました。 *VRChat Inc.によって運営が行われているメタバースのプラットフォーム。 DD:大丸も松坂屋も創業まで遡るとそれぞれ300年、400年を超える老舗企業*²ですが、メタバースやアバタービジネスはかなり異質ではないでしょうか? *²2010年に大丸と松坂屋が合併し、株式会社大丸松坂屋百貨店発足。 岡崎:そうですね。完全なる「新規事業」です。コロナ禍での百貨店は、リアル店舗が経済基盤になっていることもあり、脆さが露呈してしまいました。私は2018年に当社からヤフーに転職していましたが、当時の澤田社長に「デジタル事業開発部を任せたいので戻ってきてほしい」と連絡をいただいたんです。「時間と場所の制約を克服しなければ百貨店の未来はない」と話されていました。そのため、タッチポイントをオンライン化するビジネスを開発する必要があったんです。 私がヤフーにいた頃は、ちょうどPayPayのサービスをリリースした時期で、市場シェアを急拡大し、数字が急激に伸びる「エビゾリ」カーブ成長を目の当たりにすることができました。「本当にこんなことができるんだ」と衝撃を受けたのを覚えています。これまで関わってきた百貨店業界は直線に伸びる「リニア成長」が定石でしたから。だからこそ、「エビゾリはできる」というマインドを持って、百貨店業界に戻って来たんです。