H3ロケット“本格デビュー” 観測衛星だいち4号載せ、打ち上げ成功
1段エンジンを新開発したほか、宇宙専用部品ではなく民生品を多用するなどして効率化を推進。H2Aの基本型で約100億円とされる、打ち上げ費用の半減を目指した。性能向上と低コストを両立し、政府の衛星のほか、大型化が進んだ商業衛星の搭載を可能とした。科学目的の探査機、国際宇宙ステーション(ISS)や建設予定の月周回基地へ向かう物資補給機にも対応する。将来的には打ち上げ業務を、H2Aと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。
1号機は昨年3月に打ち上げられたものの、2段エンジンに着火できず失敗し、搭載した地球観測衛星「だいち3号」を喪失した。原因は2段エンジンの電気系統の異常。JAXAや三菱重工業などが異常の発生シナリオを3通りに絞り込み、全てに再発防止を施して2号機を成功させた。 H3の機体構成には、1段エンジンや固体補助ロケットブースターの基数などによるバリエーションがある。1号機は1段エンジン2基、ブースター2基。2号機は、1号機失敗前の時点で1段エンジン3基、ブースターなしという最小構成とし、主衛星のだいち4号を搭載する計画だった。失敗を受けて構成を1号機と同じとし、主衛星の搭載はせず金属製のダミーの重りと小型衛星2基を載せた。今回の3号機も同じ機体構成とした。
搭載した衛星にかかる負荷を軽減するため、1段エンジンの推力を一時的に絞って加速度を抑える「スロットリング」を、H3では初めて実施した。
政府の宇宙基本計画工程表によると、H3は今年度、さらに防衛通信衛星と準天頂衛星の打ち上げを計画。H2Aは今年度に情報収集衛星、温室効果ガス・水循環観測技術衛星をそれぞれ打ち上げ、退役する。
日米欧の主要な新世代大型ロケットは、いずれも2020年(度)の初打ち上げを目指したものの、苦戦を強いられた。H3は1段エンジン開発に手間取り、2年延期した。「アトラス5」などを運用する米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の「バルカン」は、エンジンのロシア依存脱却を図ったものの時間がかかり、今年1月に初打ち上げを果たした。欧州では、商業打ち上げ市場を牽引(けんいん)してきたアリアンスペース社の「アリアン6」が、設計変更やエンジン試験の事情で延期を繰り返し、日本時間今月10日に初打ち上げを計画している。