なぜ37歳のイニエスタは大幅減俸を受け入れて神戸との契約を2年延長したのか?
経済面とはイコール、年俸を指している。Jリーグ史上で最高額となる日本円にして32億5000万円と言われた年俸の大幅な減額にイニエスタが応じた上で、2023シーズンまでの契約延長を決めてくれたと三木谷オーナーは示唆したわけだ。 何がイニエスタを契約延長へ駆りたて、日本で現役を終える決意を抱かせたのか。 神戸での挑戦を振り返れば、決して順風満帆な軌跡を描いてきたわけではなかった。リーグ戦の優勝争いに絡めないどころか、成績不振に伴うシーズン途中での監督交代を3年続けて目の当たりにした。自身も幾度となくけがで戦列を離れた。 バルセロナでは経験しなかった逆風のなかで、2019シーズンの途中からキャプテンを拝命。天皇杯を勝ち抜き、クラブが悲願にすえてきた初タイトルを獲得した昨年の元日には、歩んできた道が間違っていなかったと言い聞かせるようにこう語っている。 「このクラブに来て1年半ぐらいが経ち、いい時期もあれば悪い時期もあったなかでタイトルを取れた。クラブがさらに成長していくための重要な分岐点になる」 大きな手応えを感じていたのか。昨シーズンの開幕を控えたキックオフカンファレンスで会話を交わした横浜FCのFW三浦知良は、バルセロナ退団時にさまざまなオファーがあったなかで神戸への移籍を決めたイニエスタの言葉を紹介している。 「僕のチョイスは間違っていなかった、と言っていましたね」 クラブが右肩上がりに転じていたからこそ、天皇杯覇者として出場した昨シーズンのACLは執念を前面に押し出して勝ちにいった。決勝トーナメントに入って右足を負傷し、軽症ではないとわかっていながら水原三星(韓国)との準々決勝で途中出場。重圧がかかるPK戦の1番手を担って成功させ、神戸をベスト4へ導いた。 代償は右大腿直筋近位部腱断裂と緊急手術、そして今月1日のサンフレッチェ広島戦で142日ぶりに復帰するまで自らに課した長いリハビリとなった。ただ、水原三星戦で志願出場したイニエスタは後悔していない。契約延長会見ではこんな言葉を残している。 「自分は小さな目標にはモチベーションを感じない。大きな目標を勝ち取りたい性格なので、ここから神戸をさらに強いチームにするための、さらに高みへ連れていくための挑戦を続けていきたい。自分に残せるものは、全力をかけてピッチで表現したものを日本のファンのみなさんに語り継いでもらうことだと思っている」 過酷な戦いで手にした勝利こそが、経験が足りなかったチームを成長させる。イニエスタを欠いた神戸はACL決勝進出を逃したが、大会を通して24歳のセンターバック菊池流帆が一本立ちし、23歳の山川哲史が右サイドバックとして新境地を拓いた。