首都の地下に存在する知られざる巨大トンネル -「環状七号線地下広域調節池」の工事現場を見学した
インフラツーリズムとは、公共施設である巨大構造物のダイナミックな景観を楽しんだり、通常では入れない建物の内部や工場、工事風景を見学したりして、非日常を味わう小さな旅の一種である。 【写真】かわいい色合いの巨大エレベーターは、地下50mの穴の底まで資材を運搬。人員用の小さなエレベーターでそこに降り立つと、地下トンネルの入り口が広がっている いつもの散歩からちょっと足を伸ばすだけで、誰もが楽しめるインフラツーリズムを実地体験し、その素晴らしさを共有することを目的とする本コラム。今回訪ねたのは、東京の幹線道路の地下深くに存在する治水用トンネル、「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の工事現場である。
■いずれ東京湾に到達する遠大な地下トンネル計画 果てしなく続くビル群、からみ合うように張り巡らされた道路、どこからともなくあふれ出てくる人々――。 東京の街は、限界まで絵の具を塗り重ねたジャクソン・ポロックの絵画に似ている。 そしてこの大都会には、地表からは確認できない構造物も無数に存在し、また増殖しようとしている。ひたすら拡大を続ける、底の抜けた立体迷宮のようだ。 東京23区西部にある、「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」の工事現場見学会に参加した。多くの人にとって初めて耳にする響きかもしれないが、“調節池”とは、近年は特に注目される治水目的の防災インフラだ。豪雨時、河川が氾濫する前に水を誘導して貯留し、道路や住宅地への浸水被害を軽減する役割を担っている。 「池」という字面から、スイミングプールのようなものを思い浮かべる人も多いだろう。確かに、東京都内で現在稼働している27の調節池のうち半数以上の15件は、地面を掘って造られたいわゆるプールタイプ。それらは「堀込式」と呼ばれる。 しかし他の12件は、普通に生活をしている市民の目には触れない、地下深くに設けられた施設だ。地下施設は道路や公園、河川など公共用地の地下を活用できるので、経済的かつ早期に大規模な整備ができるという利点がある。 東京の地下調節池12件のうち9件は「地下箱式」といって、地下に設置した巨大な箱型の貯水施設。そして残る3件が、長大な地下トンネル内に洪水を貯留する仕組みの「地下トンネル式」である。 現在のところ稼働している東京の「地下トンネル式」調節池は、神田川・環状七号線地下調節池、古川地下調節池、白子川地下調節池の3つ。 そして今回、工事現場を見学する「環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事」は、白子川地下調節池と神田川・環状七号線地下調節池とを連結する、約5.4キロメートルの地下トンネルで、2028年の竣工を目指している。 「環状七号線地下広域調節池」全体の計画は非常に大きいため、その工事はいくつかに分けられている。 (1)神田川・環状七号線地下調節池:2007年(平成19年)竣工。杉並区~中野区の環状七号線地下で、神田川と支流の妙正寺川、善福寺川の洪水を取水し溢水を軽減するために運用中。内径12.5メートル、延長約4.5キロメートル、貯留量約54万立方メートル。 (2)白子川地下調節池:2018年(平成30年)竣工。練馬区の目白通り地下で、白子川と石神井川の洪水を取水し溢水を軽減するために運用中。内径10.0メートル、延長約3.2キロメートル、貯留量約21万立方メートル。 (3)環状七号線地下広域調節池(石神井川区間):現在工事中の、上記(1)と(2)の連結区間。中野区~練馬区の環状七号線および目白通り地下。内径12.5メートル、延長約5.4キロメートル、貯留量約68万立方メートル。 このそれぞれが「環状七号線地下広域調節池」の一部なのだ。