首都の地下に存在する知られざる巨大トンネル -「環状七号線地下広域調節池」の工事現場を見学した
ただ漫然と思っていたのは、自分が立っているこの場所が、工事完了後のいつの日にか、濁流の中に沈むのかということ。――想像すると、背筋がゾクッとした。 ■目に見えず意識することも少ないが、大切な防災インフラ かつて農村地帯だった東京23区域西北のこの辺りは、吉祥寺の井の頭池を源とする神田川を筆頭に、いくつもの中小河川が流れ、田んぼや畑の用水並びに水運のため活用されてきた。 しかし近代になって都市化が進むと、降った雨はコンクリートの地面に染み込まず、川にどんどん流れ込むようになり、洪水が起こりやすくなった。東京都は川の幅を広げたり深くしたりするなどの対策を講じてきたが、より効果的な方法を模索し、治水政策の中心は調節池の建造へと移った。 さらに近年になると、気候変動によるゲリラ豪雨も多発するようになったが、環状七号線広域地下調節池のような施設があるおかげで、我々は比較的安心して生活を送れるようになっている。普段目に見えない施設でほとんど意識されることはないが、実はそこで暮らす人々の生活、安全、生命を陰で支える重要な存在。それが防災インフラなのだ。 見学を終えて地上に戻ると、そこにはいつもの東京の風景が広がっていた。行き交う車、忙しそうに歩く人々。あの地下空間を見た後では、こんな地上の平穏がとても尊いものに思えた。
■ 佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
佐藤誠二朗